社会の毒 ―少年漫画症候群(ジャンプシンドローム)―

読んだらもう1回作品を見返したくなる、そういうレビューを私は書きたい

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新しいスーツが欲しくなる そんなマンガがあります

服というものにさっぱり興味がありませんでした

子供の頃はもちろん、大学生になってもそれは変わらず
シャツとズボンの組み合わせを考えるのが面倒で
上から下まで黒ずくめの格好をしてたりしました

しかしこのマンガを読んでそれが損だと気づきました


01コミックス1巻s




王様の仕立て屋 ~サルト・フィニート~



舞台はイタリア・ナポリ
そこで一人居を構える服の天才職人・日本人オリベユウの活躍を描きます



そもそも服を着るとはどういうことなのか

寒さ熱さの調整のため?
もてるため?
素っ裸は捕まるから?

これらも立派な理由でしょう
しかし、この作品においては違う考え方が示されます



02再確認s

ファッションに対する解釈は人それぞれだが
毎日鏡に向かって身だしなみを整えるのは
自分が何者であるのかを再確認する儀式なのでは
あるまいかと



高校生が制服を着るのも
メイドさんがメイド服を着るのも
看護婦さんがナース服を着るのも
ビジネスマンがスーツを着るのも

自分が誰であるのかを理解するため

服とは、自分が誰かを規定し、さらにそれを見る周りに知らせる効果を持つと言えるのです

だとするならば、服を変えれば自己の規定が変わり
それを見る他者の認識も変わり
自分と他人が変わった結果としてその後の運命すらも変わる
そんな可能性も否定できないのです

そうであればこそ

服が変われば人生が変わるのです

また、服を変えることによる変化は見た目だけではありません
自己の認識が変わることで、自分に自信が持てるようになる

極端に言えば、安物の量産品よりも高級ブランド服に身を包んでいる方が
堂々と出来るはずだし、行動も出来るはずというだけのことですが
服を変えるだけでそれだけの違いが出るわけです


そして
仕立て屋とはそのための
その人のためだけの服を作ることのできる
職人なのです

仕立て屋

"裸の王様"
ありゃあ仕立て屋に化けたイカサマ師が王様を騙すっていう
まあ仕立て屋にとっちゃ不名誉な物語だが
穿った読み方をすればな
仕立て屋は王様でも手玉に取れるって話でもあるのさ



これが、このマンガのタイトルの意味です。


服を変えれば運命が変わるとしたら
その服を作ることのできる仕立て屋は
王様さえもその手で転がすような力を持つ

だからこそ
この作品に描かれる天才職人オリベの活躍に
心が震える

仕立て職人の手による服を依頼人が身に纏った時
運命のいう名の王様が手玉に取られる
その瞬間を目撃することができるのです



愛用の鞄に似合う紳士服が欲しい

愛用の靴下に似合う紳士服が欲しい

着ればマフィアのドンとしての貫禄が出るスーツが欲しい

上場企業の会長さんに直談判する時に着るスーツが欲しい

映画で演じる役のイメージに合う服が欲しい


些細な動機から複雑な感情による要望まで
オリベは、こうした依頼人の全てと丁寧に言葉を交わし
依頼の原点を探ります
そうすることで、依頼人の気持ちに本当に応えられる服を仕上げるのです

そこにあるのは、王様をも手玉に取れる仕立て職人としての彼のこだわり


04最高の状態で

客の希望を最高の状態で演出したらどんな物語が転がるのか
そんな事を想像するのも仕立て屋の楽しみだったりするのさ



職人が作る服は、依頼人のためだけの一着です
きっちりサイズを合わせ、仮縫い(試着)を繰り返して
最高の状態に仕上げるそのこだわりは
依頼人は生身の人間であり
世界にただ1人だけの人間であるということを理解しているが故


saisuns.jpg

仕立て服ってのは金も手間もかかるが
他人には合わないから古着屋に卸しても二束三文だ
つまりは採寸した時点でこれはお客様の物
職人やメーカーの都合なんぞどうでもいいのさ




そんな彼の腕を頼りにしている人々が依頼人以外に大勢います

イタリアミラノ貴族がトップデザイナーを務めるブランド「ペッツオーリ」
フランスの感性とイタリアの技術を融合させた「ロスタン」

そして、彼が居を構えるナポリに新店を立ち上げた
新興のブランド「ジラソーレ」(ひまわり)

このジラソーレ、女子大生達のサークル活動から発展したブランドということで
会社の幹部たちが全て女性達で構成されています
そしてこれが揃いも揃って美女ばかり

07ジラソーレs



むしろ幹部が女だけのファッションブランド会社なんて
作中に何人もの美女を登場させるためにはなんと都合のいい設定でしょうw

初期に登場するのは6人ですが、創立メンバーは全部で12人
彼女たちの存在を抜きにしてこの作品を語ることは出来ません

なぜなら、彼女たちと関わるようになったことで
オリベの腕と評判がヨーロッパの各地域と各層に伝わっていくからです

イタリアトップブランドデザイナーから
イタリア貴族にイギリス貴族
さらには石油王まで

いつの間にかジラソーレの顧問やアドバイザーのような形になっていくオリベ
新興ブランドである彼女たちは自分たちの手に負えない難しい注文を受ける度
彼の意見を聞くため足繁く通います

08頼りはオリベs

09頼りはオリベ

オリベに頼りまくりなジラソーレの女性達ですが
彼を単なる便利な知恵袋と考えているのではありません

簡単に彼に頼るのを潔しとせず
どうにか自分たちだけでやってやろうと意地を張る社長

彼を尊敬し、その技術をどうにか自分のものにしたいと
弟子入りを志願した支店長

また、オリベを本気で好きになり、
自分の夢すら揺らしてしまった元スーパーモデルもいました


彼女はオリベを評してこう語ります

091不思議な人s

異国からたった一人でふらりと現れて
気負いも気取りもなく
身につけた職一つで業界をスタスタ歩いて
いつしかセレブリティの信頼を得てしまう
不思議な人



092安心感があるのよs

二十年後 五十年後
どれだけ人や流行が変わっても
いつでもナポリに逢いに行けば
彼だけはそこで相変わらず
同じ仕事をしててくれるような安心感があるのよ








それなんて俺の理想?







天才的な腕と技術を持ち
美女達から頼りにされ
そのストイックさにものすごい信頼を寄せられる



厨二病が治っていない俺としては
どう見ても理想像です本当にありがとうございました



もちろん彼女たちの存在意義はオリベの引き立て役というだけではありません
幹部全員が若干20代の女性達であり
過去にはスーパーモデルとして活躍したほどの美貌を持つ彼女たち
話が進むにつれて、服にこだわる美女は次々登場します
そんな彼女たちの存在意義がそれだけであるはずがない
そんなことは俺が許さん






そうです








10カプリ島

11カラー

12パラダイスですか




パラダイスですヒャッホウウウウウウウウウウ!!!!!!!




作者大河原先生はしっかりわかっていらっしゃる模様
折に触れてジラソーレの女性達のサービスカットが盛り込まれ
作品に華やかさを添えてくれます

たとえばこんなのとか
13ユーリア

こんなのとか
svs.jpg


こんなのとか
15アンナs


ん?
どうしてブランドの社員がウエイトレスみたいな格好してるのかって?
決まってるじゃないか


さて、それ以外にも本作品にはアニメやネット系の描写も
時折出てきたりします


16平野綾s

背景にさりげなく某人気声優が出ていたり

17同人誌

まさかの秋葉でフィギュアや同人誌に大興奮してみたりと
いわゆる俺みたいな層には、大変読みやすい作りになっております


それ以外にも、紳士服をテーマとしているだけあって
服に関する話は盛りだくさん

何よりも、着こなし方、合わせ方に関する場面と説明が多いのです
そう言った方面に全く疎い身としてはもう新鮮で新鮮で



cord1s.jpg

シルエットはモダン寄りの2ボタンスーツ
ラペルは細くVゾーンが深い
白地にブルーの大柄チェックワイドシャツに
やや太目の水色ニットタイ
シャツのほぼ180度ワイドカラーと広いVゾーンで
風通しの良さを出している
白地に水色の縁取りチーフを
無造作なTVフォールドで堅苦しさをわざと崩し
白と青の寒色系が中心のスーツに
靴はこげ茶のロングノーズプレーントゥ
涼しげな生地にマッチしたコーディネートですね



cord2.jpg

ブルーの2ボタンスーツ
ロンドンストライプシャツにネイビーソリッドタイの
さっぱりとした組み合わせを強調
ネクタイは流行に左右されない8.5センチ幅
クリーム色チーフの柔らかな印象で
交渉の場の角を丸くしている
足下はブラウンのチャッカブーツで
暗くならずに全体の落ち着きを持たせている
高いゴージラインとナポリ仕立て特有の
堂々としたラペルがVゾーンを広く見せ
着ている人をオープンハートな印象に仕上げている
現代の2ボタンスーツは上のボタンの位置が
3つボタンスーツに近くVゾーンは狭い
だがナポリ仕立てが得意とする段返り3つボタンは
Vゾーンが広い2ボタンのバランス
これを元にして体にできるだけ添わせる事で
ごく自然に胸襟開く印象を相手に与える
目立たないが絶妙の職人技だ




職人が作り上げた服を実際に着てみた依頼人の立ち姿と
その印象が、細かい要素を元にして詳しく説明されます

Vゾーンの広さ
ラペルの広さ
ゴージラインの位置
チーフの形
シャツの柄
上着のボタンの数
靴の形
全体の色調

それらあらゆる要素が絡み合ってその服を着た印象というものが
決まっていくのです



正直さっぱりわからんというのもまあ当然の話
それはマンガという表現の限界も関係しています
絵として描かれるマンガではどうしても表しきれない部分があるのです

スーツ生地の質感だったり厚さだったり
体へのフィット感だったり
見た目の色や柄でさえもトーンで描かれるだけでは
どうにもわかりづらかったりするのです



だからこそ、自分でスーツを注文してみたくなる



例えばジャケットの上襟と下襟の縫い合わせ線であるゴージライン
それが高い位置にあるか低い位置にあるかによって
見る人の印象が違うといいます

作中でも少し解説されていますがこんな感じだそうな

ゴージライン


フルオーダーで細部にこだわった注文を出すのは難しいかもしれませんが
既製服でも並んでいる商品を比較するのに知っておいて損はないでしょう

細部のちょっとした部分を違わせることで
全体の印象が大きく変わるのだとしたら
それはつまり、自分が相手にどう思われるかを
ある程度コントロールできたりする
ということなのです

就職活動で
商談で
普段の仕事場で
ちょっと違うスーツを身に纏ってみる
それだけで周りの見る目が変わる
自分の気持ちも変わる
そうすれば運命も変わる  ……かもしれない


その他服の手入れに関する実用的な話題や
19アイロンs


ほとんど雑学に近い蘊蓄まで取り揃えて
18靴s



知識欲をこれでもかと刺激してくれます


コミックスは現在32巻
さらに2011年12月より、新創刊のグランドジャンプPREMIUMにて

王様の仕立て屋 ~サルトリア・ナポレターナ~

とタイトルを変えて第2部が開始されており
すでにそのコミックス1巻も発売されています


サービスシーンあり
知識欲を刺激する蘊蓄あり
こだわりにこだわる男の世界あり
サービスシーンあり

これほどの密度を持ちながら
全く飽きさせない作りと展開は、まさに娯楽作品と呼ぶにふさわしい




全身全霊でオススメします






Kindle版は以下から








第2部コミックス1巻のレビューも書きました
こちらからどうぞ





[タグ] 大河原遁




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