2018年週刊少年ジャンプ16号感想その1
今週の『ゆらぎ荘の幽奈さん』と『ぼくたちは勉強ができない』では、
ジャンプラブコメにおける1つの節目を見ることができるのかなあということを思ったんですよ
現在ジャンプ誌上において連載されているこの2作品
どちらも可愛いヒロインを多く登場させたラブコメメインの作品ですが
ジャンルを問わず共存が難しいと言われるジャンプにあって、ラブコメというカテゴリで
どちらも強く人気を博しているのはとても珍しいことであると言えるでしょう
そんな2作品
今週の内容は非常に興味深いものとなっておりました
「告白」に対してそれぞれ非常に興味深いベクトルを見せてくれていたんです
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ラブコメ
ラブコメの中で展開上のクライマックス、またはゴール、あるいは終着点の意味合いを持つ「告白」という要素に対して
この2作品は今週それぞれ対照的な方向性を示してくれたのです
『ぼくたちは勉強ができない』での告白
『勉強』の方は、「愛してるゲーム」なるものをテーマとして
主人公とヒロインたちの間で「愛してる」を言うか言わないかといった騒動を描きました
この「愛してる」というのはもちろん「告白」に通じるものです
ゲームという体裁を取ることで、本来ならば物語の完結、あるいはエンディングを醸し出す要素であるはずの「告白」を
気軽に作中に登場させたわけですね
しかしゲームとは言っても、やはり面と向かって言葉にするのはどうしても恥ずかしさが生まれるという点をもって
言えたり言えなかったりする様子をコメディとして描くことに成功しています
あくまでゲーム上のことであっても、口にしようとするだけで、聞こえるだけで、何かの気持ちが発生してしまう
主人公とヒロイン両者ともにそんな様子を見せており、ゲームであるはずの「告白」を、ゲームとして割り切れない姿が描かれました
これは、「告白」という行為がラブコメとしてはやはりその終着点に近いものであるという
従来の位置づけの延長上にあるものです
しかしその認識と定義を崩さないようにしながらも、これまでとは異なるアプローチとして
「愛してるゲーム」なる話を持ってくることで、虚構としてのゲームと
本音としての自分の気持ちとの間で揺れる心情がコミカルに描かれていました
告白をただゲームのように扱うだけでは、ラブコメの中核である恋愛感情を軽々しく扱ってしまうことへの反発も出かねませんでしたが
メイド喫茶での遊びとして初めに描いておくことで「そういう気軽な遊び」との感覚を読者に与えることに成功しています
それにより、「告白」という行為の重大性を損なうことなく、気軽に作中で行わせることが出来ているんですね
各ヒロインの登場頻度や好感度を上手に保とうとする筒井先生らしいバランス感覚だと言えるでしょう
『ゆらぎ荘の幽奈さん』での告白
対して『ゆらぎ荘』では、先日コガラシくんに告白して玉砕した雲雀が決意を新たにする展開となりました
焦りから作戦の1つとして告白を実行したものの、勢い余って最後まで全部気持ちを話してしまい、結果フラれた雲雀
しかしいろいろな葛藤の末、それでも諦めきれないとの結論に至り、これからも好きでいると再度告白
その結果、誰にも気兼ねすることなくそれはもう積極的にコガラシくんにアプローチしていくことができるようになりました
何せ、相手に気持ちがバレてしまうかもしれない、なんてことは一切気にする必要がないからですね
もうすでに告白してしまっているんですから、バレるも何もありません
そして、諦めないと決意したからにはコガラシくんへのスキンシップもボディタッチも遠慮なくどんどん実行する
告白する決断から、前向きに立ち直る決意まで、たくさんの勇気を振り絞った雲雀は
同じように片想いしているライバルたちに対して非常に有利な立場を得たわけですね
つまり、今週の『ゆらぎ荘』で描かれているのは、「告白」の実行がすなわち終わりではないという側面です
これまでのラブコメにおいては、主人公からの告白であろうとヒロインからの告白であろうと
「告白」という行為に対しては非常に大きな意味が付与されてきており、
それゆえに、大半が物語のクライマックスとして描かれてきました
だからこそ、物語の途中でどちらかからの告白が実行されようとする際には
ボールが飛んできたりケータイが鳴ったり誰かが来たり、偶然を装う作者の見えざる手によって妨害されるのが普通だったわけです
今回の雲雀の告白も、同じように何度も邪魔されてはいましたが、それに屈しなかった雲雀は最終的に告白を成し遂げるに至りました
その結果、新たな気持ちでコガラシくんに対して積極的にアプローチしていけるようになったのでした
従来のラブコメにおける線上で考えればあまりにも時期尚早だったはずの雲雀の告白
しかし実行してみれば実際には非常に大きなものをもたらした
それは単なる「1つの経験を得た」というようなものではなく、片想いを叶える上で強く意味のあるもの
ラブコメにおいて「告白」を実行したヒロインが、今までよりもさらに有利な立場として主人公に積極的になる
それは、「告白」を物語の完結へ向けた要素として扱ってきたこれまでのラブコメ作品に対する新たな作劇と言えるでしょう
いや別にこの作劇が史上初めての画期的なものだ、なんてことを言うつもりはありませんが
あくまでジャンプ作品の中で、ということでね
似て非なる「告白」の描き方と、従来作品の教訓
『勉強』も『ゆらぎ荘』も、ともに主人公に明確な想い人を設定していない点で共通しています
それが、明確な想い人を設定することで展開過程に少なくない反発を生んできたこれまでの作品からの教訓だとするならば
同じく従来の作品では重大な意味を持って扱われてきた「告白」に対する描き方にもまた、それぞれの方針が表れていると言えないでしょうか
ゲームの体裁によってその重大性を損なうことなく作中で実行させることができていた『勉強』
フラれたヒロインがそれでも諦めない強い気持ちを持つことで、告白することがすなわち終わりではないことを示した『ゆらぎ荘』
共存する2作品が「告白」に対して、似て非なる描き方をしていたことは
今後のジャンプラブコメにおいて1つの節目となるのではないかと感じました
今回のゆらぎ荘は雲雀の想いの強さがよく描かれていたとおもうし、「現時点では」一番有利な立場でしょう。
しかし別の角度から見れば、遠慮のないアタックは告白をためらっている幽奈と千紗希を有利にしてしまう材料になるかもしれません。
今回の終盤のように雲雀とかるらの争いが増えるのなら、さすがのコガラシも今以上に疲労が蓄積されるのは避けられないでしょう。そんな状態で「いつも声を聞くだけで疲れがふきとぶ」幽奈と二人きりになれば、彼女の控えめな言動が今まで以上に彼に癒し効果を与えてしまうことになりかねません。
そして今回の件でコガラシは「誰かを振ることの気の重さ」を知ってしまいました。そんな彼の心境を理解してあげられる女性は千紗希しか存在しないのです。普通の人間である癒しに加えて、悩みを共有できるようになることは彼女の特別性を増すことになります。
要するに雲雀もかるらもTPOを考えて少しはなりふりかまったアタックをしないと、「幽奈と千紗希の特別化を交通整理しながら誘導してしまう」ことになってしまうと考えられます。二人とも今までの話を見ると、自爆属性を持っていますからね。