社会の毒 ―少年漫画症候群(ジャンプシンドローム)―

読んだらもう1回作品を見返したくなる、そういうレビューを私は書きたい

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『ニセコイ』後の古味直志先生に訪れた変化とは… 『刻どキ』ジャンプGIGA Vol.4感想

刻どキ


刻どキ 古味直志

ジャンプGIGA Vol.4巻頭カラー掲載

『ニセコイ』の完結から間もない古味先生が描く青春の物語です

ようやく感想書けました…

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[タグ] 古味直志








…さて

賛否両論を巻き起こしたニセコイの完結からまだ2か月程度の古味先生が、さっそく新作を描いてくれました

俺も含めて、当ブログ常連の方々には賛否の中でも否の気持ちが強い方ばかりでしたが、
この新作読み切りについて俺の印象を率直に言えば、思ったより悪くなかったというのが正直なところです

関連記事にたくさん書いた通り、ニセコイの完結があまりにもあんまりであったことから
早速描かれるというこの新作にも期待より心配のほうが多かったことは俺も自覚するところですけども

それでもというか、それだからというか、読み終わっての印象は「思ったより悪くなかった」という気持ちでした


本作に込められたもの


ストーリーの肝となる心臓の病気は、俺も聞いたことがある俗説(仮説?)をきっかけにしたもの
主人公やヒロインの余命がいくばくもないことがわかっているという設定は珍しくありませんが、この作品では
その病気を心臓の拍動回数に持ってきたことで、「余命」ではなく「寿命」として描くことに成功しています

そして、それゆえに強調される主人公たちの青春へ懸ける想い
それが自分の寿命を縮めるものであることを理解していながら、ドキドキとする気持ちを抑えられない彼らの衝動

「限られた残り時間において最大限に満ち足りた気分になりたい」という衝動と願望を強調することになっているのです

鼓動の残数という明確な数値によって残り時間が決まっている彼ら
それゆえに、その残された時間を出来る限り楽しく過ごそうとする

そうした煌めきが本作における最も鮮やかな部分でした

ただしその衝動と願望は、何もこの主人公たちに限って存在するものではありません
本作の主人公たちを彩った煌めきは、彼らでなければ得られないものということはないのです

特に病気ということもなく普通に学生生活をおくることのできる多くの読者たちであってもそれを得ることは可能なんですね
なぜなら、本作における鼓動残数という残り時間に相当するものは学生生活の残りという形で誰もが持っているからです

高校なら3年間
大学なら4年間
といった形で存在する「残り時間」

おそらくは普段意識することは無いに等しいと思われることですが、しかし明確な事実です

3年生はあと1年しか時間が残っていないこと
2年生の文化祭が終わったら、残った機会はあと1回しかないこと

学生時分にこんなことを意識することはきっとほとんどなかったでしょう
俺だってそんなに真剣に思ったことはありません

楽しい時間はいつまでも続く
こいつらとはずっとこうしてバカみたいな話を繰り返していける
学校に通っていた当時は、誰もが疑いもなくそんな夢みたいなことを信じていたことでしょう

しかし、現実にはそんなことはないのだということに、みんな気がついていく

3年生の文化祭がありえないほど盛り上がって楽しかったからって、来年の文化祭も楽しみだ、というのは不可能なのだと

時間の経過を知り、実感することが大人になるのに必要なことだと個人的に思っているのですが、
そうだとすれば、「もう来年はこの場所にいないのか」を寂しさとともに理解することは、何よりも重要な儀式であるとも言えるでしょう

なればこそ、今この時にしか無いその瞬間の青春をめいっぱいに謳歌すること、噛みしめること、味わうこと
病気の有無に関係なくいずれ終わる学校生活に対して、それがどれだけ貴重な時間であるのかを感じて欲しい


本作からはそうしたメッセージを読み取ることができるように思えます

今まさに学生生活を送っている読者たちは、1年か2年か、残りの学校生活を今よりももっと謳歌できるように奮起していいのだと
だとすれば、少年マンガとしては実に正しいスタンスであると言えるでしょう


今までの古味作品との比較


さらにもう1つ
本作における特徴を今までの古味作品と比べた時にどのようなことが言えるかについても触れておきましょう

今までの古味作品には存在しつつも『ニセコイ』にはなかったある要素
それは本作においても存在しませんでした

が、似て非なるものがあったというか

夢を描けるマンガ家 その名は古味直志

この記事で書いた「壮大なる親近感」

規模の大きい世界レベルの話が進行するところに、我々がよく知る日常レベルのちょっとしたものも同時に存在している
そのために、よく知っているはずの日常的要素が少し違ったものに感じられる

『island』に始まる古味作品を読む中でこうした特徴に気がついたわけですが、本作にはそれと似て非なるものがありました

言うまでもなく、鼓動の限界数が決まっているという病気のことです

上述したように、学校生活の残り時間を心臓の鼓動限界に変換することで「残された時間」を強調する効果を果たしたそれは
作品の根幹に関わる要素として付与されているものですが、しかし「壮大なる親近感」を醸し出すようなものではありませんでした

ファンタジー世界の中に読者のよく知るものがほんの少しだけ入っているわけではなく
読者にとっては日常的な行為に作中世界で特別な意味が込められているわけでもなく

むしろ普通の学校生活の中に、読者にとっても作中においても特別な要素が入り込んでいるものだったこの病気
その意味ではこれまでの古味作品とある種正反対の特徴になるのかもしれません

ファンタジー世界に不思議な要素が付与されているのではなく
日常の世界に、読者の過ごす日常でも存在する仮説(俗説?)をアレンジしてくっつけられたもの

すなわち、作中世界はどこまでも日常の世界であるわけです

ファンタジーを描きたかったはずの古味先生がようやく得た新作の場で、それでも日常の世界を描いてきたということ
今までの作品を知る俺からすれば、意外なことでした

そしてそこにくっつけられた要素が、ネガティブな一面を含むものであることもまた意外で

鼓動の残数により、その限界はすなわち命の終わりを意味する病気
学校生活の残り時間と同質のものと上述しましたが、その終わりが意味するものは明らかに違っていました

『ニセコイ』以前の古味作品における「壮大なる親近感」は、基本的に前向きな要素を含んでいるものでしたが
この病気の場合はおそらく治療もできない原因不明の病ということで、その行く末は間違いなく「死」であることが暗示されたのです

その割に雰囲気はね
すごく明るいんです

『ニセコイ』を彩る特色だった顔芸もふんだんに使われていて、こんなにはしゃいだ表情ができるのに
こいつはほんとに余命幾ばくもないのか…?と不安になってくるレベル

残された時間が明確にわかるからこそ「余計なことには一切寿命を使いたくない」と思うほどには焦ったりしていなかった彼ら
どんなことをしていてもその残数を消費することになるわけですから、彼らにとって、どこに行く/何をするというのは寿命の消費を意味する重大なものです

しかし、それをわかっているはずの彼らは、それでも残りの寿命の一分一秒を争うかのような焦りや緊迫感は殆どありませんでした
雰囲気を明るくしている大きな原因の1つがこのことなんですけども、そのおかげで、ラストにやはり訪れる「死」のネガティブさが
わずかに強調されることになっているように感じます

どんなに明るい雰囲気の中で描こうとも、笑顔のコマで締めくくろうとも、映っているのは遺影であり、紡がれるのは死を覚悟した言葉
主人公たちが死んでしまいつつもハッピーエンドのように描かれている事実が腑に落ちなかった人は俺以外にもいるのではないでしょうか

限られた時間を楽しく前向きに過ごそうとする主人公たちの明るさはあっても、結末はどうしてもネガティブなものであること

それが、今までの古味作品と比較した本作の特徴です


過程をどれだけ明るく描いても、彼らが背負っているものは鼓動の残数という形で明確の自分の寿命がわかってしまうという運命

終わりが分かるからこそそれまでの時間を可能な限り濃密に過ごすことができると言われても、
広く見れば誰にでも間違いなく訪れる「死」を必ずしも否定的に捉えることが一面的であると言われても、

少年マンガにおいて主役が死亡する結末はやはりどこか悲しいものを含まざるを得ません

それもまた物語の1つの在り方であるというのはその通りですが、少なくとも今までの古味作品を読んできた流れから言えば
どんなに明るい形であっても主役を死なせる結末を古味先生が描いてくるとは全く思っておりませんでした

果たしてそれは、古味先生に訪れた描きたいものの変化であるのか否か


『island』でデビューした際は、「夢のある話が描きたいです」と語っていた古味先生
その後『ニセコイ』1巻では、「楽しいものが描きたいです」と描きたい内容の表現に若干の変化を見せていました

そしてその連載を終えての最新作は、どこか悲しいものを含む物語だった

目次コメントでは「100%趣味で描いた」と述べておられました


おそらくはまたこうした部分が、『ニセコイ』で古味先生の感覚に疑問を抱いた人々にとっては余計にその気持ちを増幅するものになったことでしょう

明るい雰囲気であったとは言え、主人公もヒロインも最後には死んでしまう
そんな物語を「100%趣味で」「楽しんで描いたので気楽に読んで下さい」と言える楽観さ

『ニセコイ』において古味先生の感覚についていけないと感じた人にとっては、こうした部分もまたついていけないセンスのように映ったのではないでしょうか

そういう人たちにとっては、もしも本作を描いたのが古味先生でなかったならば、作品に対する評価は随分違ったものとなったでしょう

俺もその場合は上述のようなメッセージ性を理由に、非常に良い印象を抱いていたと思います

しかし、デビュー作からずっと追いかけてきた古味先生が描いたものとなると、『ニセコイ』とはまた別のところで、古味先生の変化を感じざるをえないのが正直なところなんですよね

それは今後の古味作品にどのような影響をもたらすものなのか

一定の評価をすることはできつつも、古味先生に訪れた変化を感じさせた点では手放しで褒めることもできない作品
俺の感想を一言で表現すればこのようになるでしょうか


皆さんはいかがでしょう

COMMENT▼

未だに引き摺ってませんか?

描きたかった(楽しんだ)のは遊園地ではしゃぐとこやらで結末では無いのでは?
ジョジョの台詞ではありませんが覚悟が絶望を吹き飛ばす。
ゆっくりと死んで行くだけの心が救われて、幸福に生き抜いたと思ったのですが…

No Subject

古味先生自身、ニセコイのダメージ(といってよいかどうかはわかりませんが)を引きずっているように思いました。

病気の名称が刻拍病(コクハク病)でドキドキする事いっぱいの青春を過ごすことがテーマの作品でありながら、一番のドキドキであるはずの恋愛の告白を描かなかった。これは小野寺さんの告白を225話まで邪魔し続けたために、自ら描けなくしてしまったように思います。

それと、ぽっぽの死後もぽっぽのナレーションが続いていたのですから、死んだらおしまいという世界観ではないのにもかかわらず、初の死後の2人の再会を描いていません。これを描くと、ニセコイの絵本のオリジナルの結末「ふたりはてんごくでしあわせになりました」をなぞることになるので、これも避けたように感じます。

考えすぎでしょうかね。

更新お疲れ様です。

更新お疲れ様です。

事前にネットの評価を目にしていたので、恐る恐る読んだのですが、読み切りとしてはかなり面白かったです。
「初期設定のうまさ」「女の子のかわいさ」の2つに関しては古味先生は天才的だと思います。
ニセコイの九州編や最終回で古味先生の実力に対して少し疑いを持ってしまっていましたが、やはり累計1000万部や連載5年は伊達ではないと感じました。

次の作品も楽しみに待ちたいと思います。

ようやく読む暇が出来た。

感想としては「普通に感動出来ました」
読み切りなどの短編向きなんでしょうかねやっぱり…

描きたかったのは「命の救済」ではなく「心の救済」
そこに下手に恋愛感情を挟み込まなかったのは最良の判断と思います。
二人とも持っていたことは確かですが、出会えたこと自体がそれを上回る多幸感に満ちていた。
ここで単純な恋物語にしてしまったら一気に陳腐な印象になっていたと思います。

Re: 未だに引き摺ってませんか?

皆様コメントありがとうございます。

>あさるとさん
描きたかったものがそのシーンであるかのような気合いの入り方や作劇上の盛り上がりは、遊園地ではしゃいだりするところや色々遊んでるところとは思いませんでしたね。作品によっては「このコマか」とか「このシーンか」というのがわかるものがありますが、本作に関しては特定の場面にそうした印象を感じることはありませんでした。

なので、描きたかったものというのを作品全体として捉えております。

幸福に生き抜いたというのはその通りですが、死因が「病気」である以上死んでしまった結末にはやはりマイナスのイメージが伴っているのではないかと。病気ではなくそういう性質とか種族であるとかであればまた違った印象だったかもしれません。


あとは名無しさんのコメント内容が結構わかりやすさを感じました。そもそも「ドキドキ」を連想させるタイトルの時点から恋愛要素があるような雰囲気が出ていて、かつ病気の名前が「こくはく」なんてなっているのはさらにその印象を増幅させていました。

結果としては、ラグエルさんの言うとおり、これに恋愛要素が入っているときっと上手いことまとまらない感じになっていいただろうと思われるので、描かれなかったこと自体が間違いとは言い切れませんが。

ナレーションキャラが自らの死亡を語った後も普通にナレーション続けているのもそういや違和感でしたね。


ニセコイショックを引きずっているのはたぶんそうだと思いますが、それを別にしても、読み切りとしての完成度は高いけれど古味先生の作品として見ると引っかかる部分があるという感じでしょうか。

No Subject

普通に読めました
自分は軽度な心臓病ですが、
刻拍病は重いですね・・・よく
批判に親がどうのって書かれてますが、
主役もヒロインも若いです。
余命に逆らって長生きしてる人も
居ますが、少ないです。
決められた命なら楽しんで、
死のう若者ならそういう考え方に
なるんじゃないでしょうか?
ニセコイは散々な作者ですが、
ジャ〇プ側も原因は(終らせてたいのに
終らせてくれない)それで話がグダグダに
なったのでは?と

Re: No Subject

コメントありがとうございます、名無しさん。

実際に心臓に病気を持ってらっしゃる方からの感想とは貴重なものをいただきました。そんな方でも普通に読めるというのは、作劇のバランスとしては上手いこと出来ていたといえるでしょうか。

ニセコイにつきましては、関連記事に示しております通り、「超本気で振り返る記事」を書いておりますのでよろしければそちらもご覧ください。長く続いてしまったこと自体ではなく、「どんな内容・状態」が長く続いてしまったことが原因と考えるか、を高査察したものとなっております。

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中でも小野寺さん照橋さんを応援しています。



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