社会の毒 ―少年漫画症候群(ジャンプシンドローム)―

読んだらもう1回作品を見返したくなる、そういうレビューを私は書きたい

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SOUL CATCHER(S)第11巻 超視覚型吹奏楽グラフィティが物足りなくなった理由

ソルキャ11巻


SOUL CATCHER(S) 第11巻

超視覚型吹奏楽グラフィティ
その完結巻です



[タグ] SOULCATCHER(S)





久々に本作のコミックス感想を書きますけども

こんなにも間が空いてしまったのにはもちろん理由があります


本紙連載時代から大いに気に入って、ブログ内にタグを設置してしまうくらいにいくつも記事を書いていた本作ですが

途中から若干の違和感を抱くようになっていました

遡ればそれは、掲載が本誌からNEXTに移ったことが大本の契機であったでしょう

本誌で掲載を続けるには人気が足りないが、打ち切るには根強いファンがいる…というような事情があったのかはわかりませんが
とにかくNEXTへの移籍連載という形で物語は続くことになりました

話はちょうど神峰の「試験」がいよいよ佳境に差し掛かろうとしている頃

金管楽器陣営のパートリーダーたちで、それぞれ仲の良い4人に認められるために
神峰が勝負に打って出ようとしている頃でした

管崎咲良という男を鍵として、4人をつなぐものへとたどり着き、その歪な絆に正しい形をもたらそうとする神峰の戦い

嫌われても拒絶されても恫喝されても立ち向かうことをやめない神峰の姿勢は、見ていて実に気持ちのいいものであり
読んでいて応援したくなってくるものでした

吹奏楽をテーマとしたマンガでありながら、実際に描かれているのは人の心に正面から向き合おうとする主人公の姿であり
心に大きな影響を与えるものとしての「音楽」の力を大いに強調することになっていたわけです

それは吹奏楽マンガとして正しい姿だったと言うことができますが、同時にその展開は「その後」に対する心配を
読者に感じさせることになりました

「パートリーダーたちに認められるため、それぞれの抱えているものに対して神峰が正面から真剣に向き合おうとするその姿勢が生む熱さと、
 曲の演奏中に見せられる描写内描写の壮大さがこれだけの面白さに繋がっているが
 パートリーダーたち全員に認められてしまったらその後にはこれだけの面白さはなくなってしまうんじゃないか」

というものです

神峰がパートリーダーたち全員に認められ、晴れて指揮者となった暁には神峰を中心とした鳴苑バンドの誕生であり
次に神峰が戦う相手となるのは大会に出場してくる他校のバンド、その構成員たちでした

カスミン先輩の攻略時に登場した聖月ちゃんだったりキョクリス先輩だったり
竹風の伊調だったり、というメンツですね

しかし、自分のバンドメンバーという最も身近な人を相手とした「戦い」が先に描かれてしまったことで
それよりも遠い関係性となる他校の人相手の勝負は、今よりもトーンダウンしてしまうことは否めないのではないか
そんなふうに思えてしまったのです

神海先生ならその辺もわかった上でしっかり考えてくれているだろうと勝手に思って読み続けていたわけですが…

完結まで読み終えた今思うことは、後もう少しだったというのが正直なところです

名実ともに神峰が鳴苑の指揮者となり、神峰を中心にして大会へ臨もうと作中では盛り上がっていた時
実は明らかに足りなくなったものがあったんです

それは緊迫感


パートリーダーたちに認められようとして神峰が必死になっていた時、
人の心に立ち向かおうとする主人公の誠実さと真摯さ、ひたむきさがそこにはありました

これでいいのか
これでいいのか
こんなことでいいのか

指揮者になりたいというエゴとも言える自分の希望と
パートリーダーたちが抱える事情の裏にあるそれぞれの気持ち

それらを踏まえて、なお突き進んでいこうとする神峰の姿勢にこそこのマンガの面白さはありました

心が見える目を持ってしまったがゆえに、誰よりも人の心を恐れて生きてきた神峰
そんな男が吹奏楽と出会うことで、心と向き合うだけの勇気を持つことができるようになった

パートリーダー攻略は、そんな主人公の行動と心理的特性を最も強くわかりやすく表現していたものでした

然るに、全員の攻略を終えた後、話の中心は神峰を中心にして1つになった鳴苑バンドで
全国大会を目指すという通常の部活ものと同じ路線にシフトしていきます

それ自体が悪いとはいいませんが、しかし本作に限ってはそうした路線を他作品と同じように続けていこうとするのは
結果としては悪手だったといえるでしょう


あまりにも淡々と進んでいってしまったんですよね


攻略編の時のあの濃密さはどこへ逝ったのか、全国大会へ向けて1度きりの演奏に全力を尽くそうと言う本番の舞台
そこでは今までと同様に演奏中の心象風景を描くことで、実力のせめぎ合いがわかりやすく視覚化されてはいましたが
しかし、ただそれだけになってしまっていたように思えたのです

攻略編での心象風景描写は、それはそれは強く濃いものでした

演奏という指揮者と演奏者の対話を通して、それぞれの心にどんな変化が生まれるか
神海先生のセンスを活かした比喩たっぷりの描写で見事に描かれていたんですね

その時の攻略対象となるパートリーダーが抱える背景がしっかりと描写された上でのことだったために
「対話」を通して彼/彼女がどのように気持ちを変化させていくのかということがありありとわかるようになっていました

しかし大会編になると、演奏によって対話することになる相手は基本的に不特定多数の観客です
作中ではそれに加えて、ライバルとなる他校との演奏の巧拙を競い合う部分も盛り込まれました

観客の心を陣地としてそれを奪い合ってみたり
イメージから具現化されたスタンド同士でガチンコで殴り合ってみたり
それはもう色んなパターンで「競う」場面が描かれていました

ですが、従来までの攻略編と比べて決定的に異なっているのが、具体的に誰に向けた演奏をするというのではないことですね

よく考えれば当たり前のことですが、多くの観客に対して「いい演奏」であろうとしていること
あるいは、他校の同じパートの相手に対して「自分のほうがより上手い」と主張しようとすること

部活ものとして見れば正しい側面ですが、攻略編までと同じ目で見ようとすると
明らかに物足りない描写となっていたのです


ただこれは、攻略編の内容をちゃんと踏まえていればその後の大会編において
同程度の濃厚さが維持されることにはならないだろうというのは予想されたことでもありました

だからこそ、攻略編が終わって全国大会へ向けて本格的に動き出していこうとするときには
どんなふうに物語が展開するのだろうと言うのが期待されたわけですが

予想していたよりも何だかやけにあっさりというかさっくりというか、そんな形で進んでいったなあと

原因ははっきりしています

攻略編ラストとなったスプリングコンサートから県大会まで
県大会から西関東大会まで
西関東大会から全国大会まで

それぞれの間がほとんど作中で描かれなかったこと

たぶんこれが一番でかい理由ですね


スプリングコンサートで桜の音を取り戻したことで、神峰はついに金管楽器陣営のパートリーダーたちにも認められました
同時に黒条の素性まで明らかになったりして、攻略編の終了と大会編の始まり、そこに集うライバルたち…
といった構図で、大いに盛り上がりそうな要素は確かにあったはずなんですが

その次の回に描かれたのは、学校行事の演奏で指揮者をやることになった邑楽先輩の弟を助ける話でした

これはNEXT掲載から今度はジャンププラスに移籍というその掲載1回目だったことで
客寄せと説明的な意味合いがあったことはわかるんですけども

それでもその後ラストの2ページ程度で、「よっしゃいくぜ」みたいにいきなり大会が始まろうとしているのはいかにも不自然でした

とうとうバンドが神峰を中心として一体になったんですから、今までよりもさらに真剣に練習に取り組む部内の様子を描いても
よかったはずなんです

特に最後まで神峰を認めようとしなかった金管陣営の彼らはどんな様子なのかとかね
金井淵先輩なんかどんな風に変わったのか見てみたかったですよ

川和先輩星合先輩管崎先輩、それに事故の被害者咲良と、その両親、計6人に対して
実に3年以上にもわたって毎日謝罪の手紙を書き続けるほどに暗く閉ざされていた金井淵先輩の心

それがついに解放されたんですからどれだけ晴れ晴れとした表情で練習していることかと

その様子を星合先輩とかはどんな目で見てるのかと

そんなのも見てみたかったですよね

そうした部内の「一丸となった描写」があればこそ、本番の舞台で観客の心を奪い合ったり同じパートどうして競い合ったりする場面が
大きく映えるはずでした

主人公特権のように見えたとしても、あくまで主役は鳴苑バンドであるとして
彼らを中心に大会も演奏も描くことができるはずだからです

それがなかったことで、せっかく次のステージへ行こうとするのに
何だかやたらにあっさり感が強く感じられる

厳密に言えば、演奏の真っ最中に練習風景や他校との絡みなどは描かれてはいましたが
必要最低限のシーンが申し訳程度に挟み込まれるだけで、取ってつけたような印象さえ覚えました

強い言い方をすれば、構成の放棄というかね

カタルシスを生み出す劇的なシーンの前提となる回想をその直前に入れ込むことで
その繋がりを直接的に示そうとする描き方になっていたのが、どうしても
「ただそのシーンのためだけに用意された回想」のように見えてどうにも釈然としない

伏線のような形で大会前の練習風景の中でさりげなく描かれていたのなら違った印象になったはずですが、
演奏中のまさに当人がメインとなった場面でそれにまつわる回想が流れてくるのはいかにも安易に見えてしまうのです

そんな「乗り切れなさ」を感じてしまうと、せっかくのイメージ映像を使ったダイナミックな演奏シーンも
どこか傍観しているような感じになってしまう

見たい映画を見ようと思って見ているのではなく、テレビをつけたらやってたニュースをただ真顔で見ている感じとでも言いましょうか
全然ハマり込んでいないんですね

吹奏楽をテーマとして、大会でその優劣を争おうとするのに描写内描写の手法を用いて
主人公たちの演奏と他校の演奏がどのように競い合っているのか、それを視覚的に表現していた描写は
非常に凄いと思うんですよ

実際にはどの学校も1度きりしか演奏しておらず、また演奏順も関係してくる中で
神峰の目を借りた描写内描写によってどのパートがどんな風に競っているのか、非常にわかりやすく示されていました

一曲の演奏中にこんなにいくつも局所的に競ってんの?と思ったりもしましたけど、たぶんそうなんだろうなとも思えたりして

だからこそ、直前に回想が挿入される構成がどうしてももったいないんです

大会前の様子でそんなに回想で入れ込むことがあるのなら、しっかり大会前に描いておいてくれよと
大会と大会の間をすっ飛ばして、すぐ次の大会を始めちゃうんじゃなくて、ひとつの大会の結果を受けて
部内でどうこうっていう場面があってもよかっただろうと

それがとってももったいのです


違う言い方をするなら、攻略編の時とは違って縦軸がなくなったということになるでしょうか

攻略編では、「指揮者として認められるためにパートリーダーたち全員に認められる」ことを目指して
1人ずつ順番に攻略していくことになりました

縦軸として、「パートリーダーたち全員に認められること」というものがあったのです

全員の攻略が終われば当然その縦軸は消滅することになりますが、しかし次に始まった大会編で
新たな軸が提示されたかといえばそんな気はしない

単純に全国金賞を目指して全力を出そう、という程度の通常の部活ものにおける普通の展開の範囲内でした

軸になりそうなものはあるにはありました
パーカッションパートの先輩が言っていた「お前たちは神峰のことを知ろうとしているのか」というセリフです

攻略編は神峰の方からパートリーダーたちに接近する内容でしたが
今度はパートリーダーたちの方から神峰に近づこうとする内容があってよかったんですね

実際に描かれた中でも歌林先輩の激によって、神峰のために、という気持ちで演奏をするみんなの様子がありましたが
それを大会編における軸にしてよかったはずなんです

全国での金賞を現実に思えるくらいに部内を大きく変えてくれた神峰という男
その男に特に影響を受けたパートリーダーたちが彼のことをもっと知りたいと思わないはずはないからですね

神峰もまた、名実ともに指揮者となった後、じゃあ今度はこのバンドでどんな音楽を目指そうとするのか
虹の音とは、といったことを追求しようとする中でその時々によって各パートリーダーを頼ったりしてよかったのです

邑楽先輩だって神峰のことをもっともっと知りたいしもっともっとお近づきになりたいはずですからね

しかし結果としてはそれは軸のように確固たる形ではなく、あくまで演奏中の心構えや意識といった部分で描かれるにとどまりました
これももったいない


あ、でも1個だけ
そんな構成とは無関係に「おお…!」とか思ってしまったのが歌林先輩の灯台守でした

攻略編において唯一明確なメインのシリーズがなく、しかしいつのまにか神峰を認めていたサックスのパートリーダー
天籟に一緒に行った時、刻阪との関係で意外とすんなり認めてもらえたんだろうかと解釈していたんですが
こういうことだったとは、と普通に驚かされました

明確な歌林先輩編がなかったことがこんなところでこんな形で使われるとは予想外で、唸ってしまいました

裏を返すと他のところは上述のようにちょっと…ということなんですが


とは言え、神海先生の意図を忖度するに、攻略編が終わって大会に臨むようになったならば
それは吹奏楽バトルとでも言うべき本作の真骨頂が発揮される展開だったのでしょう

描写内描写を通して描かれる一大スペクタクルのような演奏バトル
それは間違いなく、ジャンプにおける王道のバトルとしても成立しているものでした

自分の気持ちも仲間の気持ちも背負って相手にぶつかろうとする戦いなんですから、そりゃあもう少年漫画王道のバトルだったわけですよ

惜しむらくは、先述した理由によってそのバトルにいまいち入り込めなかったこと
それがなければ、描写内描写を駆使した超視覚型の吹奏楽マンガとして大いに盛り上がって読むことができたんじゃないかと思うのですが…


ともあれ、そうした部分はありつつも神峰が目指した音楽の最終形態もきっちり描かれて、鳴苑バンドは全国大会で金賞もとって
この上ない形での完結となったことは間違いないかと思います

欲を言えば邑楽先輩とのラブコメをもっと見てみたかった気がしますが(;^ω^)



意味深な作者コメントが何か気になりますけど、ひとまず神海先生お疲れ様でした
次回作を楽しみにしています





COMMENT▼

No Subject

確かに紙媒体掲載の頃の方が盛り上がってた気がしますね。個人的にはNEXTに乗ってた辺りがピークでした。
作者コメといいツイッターの最後の更新といい何か奥歯にものが挟まった書き方でしたが期待していいんでしょうかね。

あと最終段落。「神」です。

確かに言われてみるとジャンプ+前の方が緊迫感がありハラハラドキドキして見ていました。特に音羽と金井淵先輩の時です。自分も思いましたがジャンプ+からはたんたんと早く行き過ぎでした。せっかくなのだから練習や普段の日常を出して欲しかったです。でもでもソウルキャッチャーズは最高にエキサイティングで面白い漫画なのは間違いないです。

Re: No Subject

コメントありがとうございます。

記事内容に同意いただきまして、重畳です。同じことを感じられていた方はやっぱりいたんですね。

ただそんなふうに思いつつ、作品自体の出来については凄く評価しているというのもきっと俺と同じなのでしょう。少しだけ描くものが足りなかっただけで、全体としては作者の描きたかったものがハッキリと描かれていて、その点における完成度はとても高い。

それは間違いないと思います。


作者の名前の変換ミスは失礼しました。修正しました。

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