社会の毒 ―少年漫画症候群(ジャンプシンドローム)―

読んだらもう1回作品を見返したくなる、そういうレビューを私は書きたい

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ニセコイ22巻 マリー九州編があんな感じになった理由

ニセコイ22巻

ニセコイ 第22巻

マリーの恋に1つの区切りがつくことになった九州編
前巻から始まったニセコイ史上最長のシリーズですが、その完結までが今巻には収められています

この九州編

作中でも一際目立つ存在感を放っていたマリーの恋に決着がつくシリーズとあって
本誌掲載時から大きな注目を集めていた長編でもありました

しかも、その決着は「叶うのか叶わないのか」という恋の行方ではなかったこと
「叶わない」ことがはっきりとしている中で「いかにして楽がそれをマリーに伝え、マリーがそれをどう受け入れるのか」に
読者が注目していたことが、通常のラブコメ展開とは違う形での印象を醸し出していたと言うことができるでしょう


そうして一応決着まで描かれた九州編

全体的なシリーズの完成度を評すれば、酷い出来でした


前後の脈絡だとか、それぞれの人物たちの思惑や役割とか、
長編の完成度を決定づける要素は幾つもありますが、この九州編に関して言えば
それらの要素が上手く噛み合っているとはあまり思えず、「九州編は至高のシリーズである」などとは
とても言えないというのが俺の正直な感想です


ではこの九州編の何が悪かったのか
本稿では、22巻のレビューに代えてその辺りを1つ1つ考察していってみましょう







九州編における特に重要なファクター、あるいは注目点といえば次の項目が挙げられるかと思います

・マリーに対する楽の返事と、それへのマリーの返答がいかに描かれるか
・マリーの身体の事情はどのようなものであるのか
・望まぬ結婚を強制してまで娘を縛り付けようとする千花の思惑、あるいは真意は何か

これらの項目について、1つずつ見てみることにしましょう


マリーに対する楽の返事と、それへのマリーの返答がいかに描かれるか


九州編における最大の見せ場となるのがこのシーンであることには誰も異論はないでしょう

高校生活2度目のバレンタインに告白しておきながら、その場で倒れてしまったことで返事を聞くことができなかったマリー

その直前の会話から明らかなように、聞かずともマリーの中で返事の予測はついているものではありましたが
しかしそれでも、相手の口から直接聞きたいと思うのはおかしいことではないでしょう

同じ結論であるとしても、どのように伝えられるかによってその後の気持ちが変わってくるからですね

だから、マリーは楽が「どんな言葉でどんな風にして自分の気持ちに応えられないことを告げるのか」を知りたがりました
今まで過ごしてきた中で楽の気持ちはわかりきっているとしても、それでも「楽の言葉」を聞きたかった

そして、その楽の言葉に対してマリーはどのような反応を見せるのかというのが読者の気にするところでした

その意味では、この九州編はしっかり成功しているということができます

式場でしっかりと楽は自分の言葉をマリーに告げて、またヘリで脱出した後には
2人きりで落ち着いて話をする時間も少しだけ持つことができました

その中で、楽の返答に対してマリーもまたしっかりと自分の言葉を返したこと
自分のためにわざわざ九州まで乗り込んで危険な大立ち回りを演じたことに、恋愛感情ではないにしても
ちゃんと「大切に思われている」ことを実感することができました

それは楽だけでなく、はるばるやってきてくれた千棘をはじめとしたみんなに対してもですね

だからこそマリーは、最後の空港で晴れやかな顔をして旅立つことができた


シリーズ一番の中心人物だったマリーが、ラストにあれだけの晴れやかな表情を見せた点においては
このシリーズが一応ちゃんと完結したと言える部分であるでしょう

言い換えれば、最低限描かなければならないものはしっかり描かれた、ということですね

この点に比べれば、他の色んな部分は枝葉のようなものと言うこともできるわけで


…ただまあ、その枝葉においても重要な部分とそうでない部分があるんですけども


マリーの身体の事情はどのようなものであるのか


登場時からひたすら意味ありげに描かれてきた彼女の身体の不調
それがとうとう限界を迎えてしまったというのが、マリーが九州に強制送還される理由となりました

登場した時から折々に健康上に問題がある描写が重ねられ
初日の出はまた1年後に見られる、と聞いて複雑な表情を見せたり
かと思えば本田さんが「ただの貧血」と言ってのけたり

何やら命に関わるような病気らしいと思われつつも、具体的な病状や病名などはこれまで明かされることはありませんでした

その症状が限界を迎えたということで始まることになった九州編
当然、マリーの抱える身体の状態についてもきちんと説明されるのだろうと思われましたが


ふたを開けてみれば、具体的な病名などは一切説明されず、ただいくつかの要点が明かされただけでした

放置すれば命にかかわること
治療で治すことができること
でもその治療が難しく、アメリカにある特定の病院でしかできないこと
その病院は橘家が経営権を持っていること

説明されたのはこれだけ


…まあなんというか、非常に雑なんですよ

放っておけば命に関わるが、治療ができないわけではないこと
それはよしとしましょう

その治療が難しくて、施術できる病院が限られていること
これもまあ…いいとしましょう


世界でただ1つ、その治療が可能なその病院の経営権を橘家が持っていること
これもいいとし…


できねーよ


ある病気に対する唯一の治療が可能なアメリカの病院
その経営権を九州の一名家が握っている

起こりえないことではないんでしょうけど、感覚的には「そんなんでいいの?」って気がしますよね

どのくらいの規模の病院なのか知りませんし、そもそもマリーの病気がどの程度特殊性のあるものかもわかりませんが
そこの経営権を買うのにどれくらいの労力を費やしたんでしょうね
ていうか、その病院でしかマリーの病気を治せない理由というのももうちょっと突き詰めてていいことなんですよ

マリーの病気を治療するのに絶対必要な特殊な装置みたいなものがその病院にしか無いからなのか
または、オペの難度が超絶過ぎて、それができるただ1人のドクターがその病院にいるからなのか

「その病院じゃないといけない理由」というのが、人なのか機械なのかあるいは薬とかなのか、全然はっきりしていないんです

ただ1人オペが可能なドクターがそこにいるということなら、そんなすげえ医者なら別の病院に移ることもあるんじゃね?とか
機械の問題なら病院にこだわらなくてもそれ作った医療機器メーカーがあるだろ?とか
薬にしたって、特効薬を作れるただ1人の薬学博士とかなら上記ドクターと同じことが想定されますし

「アメリカにあるただ1つの病院でしか治せない」というのを聞いて、「ん?」と思って、脳内補完してみようとしても
どうしてもしっくりこないんですよ
他人はとりあえず置いといて、自分だけでもいいから納得できそうな補完でいいと思っても、それさえ浮かんでこない

そのせいで、結論を味わおうとするのが阻害されてしまうんですよね

マリーの病気というのは、千花との約束とともに「マリーの事情」を形成する重大な要素でした
言うなれば、このシリーズを形成するための大前提となっている部分なんですね

楽にはフラれたけれど、楽たちが頑張ってくれて結婚式はぶち壊された
けれど命を維持するためには結局親元に戻らざるをえない、たとえまた別の強制結婚があり得るとしても、という
マリーの悲しく切ない状況を浮かび上がらせるための前提だった「病気」

その詳細がこんな疑問点だらけでは、そこから醸し出される悲しさや切なさに濁りが生まれてしまうんですね

「一応理屈としては通っちゃいるけど…うん、何か、まあ…はい」
って感じになっちゃうんです

シリーズの前提となっている要素に対して疑問を抱いてしまうことは
長編としては割と致命的なことだろうと思います



望まぬ結婚を強制してまで娘を縛り付けようとする千花の思惑、あるいは真意は何か


マリーの病気とともに、このこともまた九州編の前提となる要素でした
病気を理由にマリーが凡矢理に戻れないことの決定的な原因であるからですね

唯一治療が可能な病院の経営権を実家が握っているとはいっても、その当主が治療を容認しているなら特に問題ないところ
マリーの場合は当主である母親が、娘に自分の跡を継がせるための手段としてそれを活用することで話がややこしくなっていました

とすれば、千花にとってはそうまでして娘を縛り付けなければならない理由があったはずなんですね
それがたとえ世間の常識から外れた考え方であったとしても、です

この点に関しては、特に伏せられたりするようなことはなく、シリーズが展開していくに従って
普通に少しずつ千花の心情が描かれていくことで説明されていきました

それは、当主としての義務と責任であるとか、自分もまた望まなかった跡継ぎを受け入れるしかなかっただとか
なのにどうしてマリーだけがそれを免除されることになるのか、といった諦めと羨望が入り混じった感情であったようです

そこに御影から語られたマリー幼少時のエピソードも合わせてみると、一般的に考えられるような親子愛といったものは
千花とマリーの間にはどうやら存在していないらしいということが感じ取れます

だからこそ、千花と実際に言葉を交わした楽が絶叫するくらいの怒りを見せたのでした


が、しかし

最終的に千花は、病気の治療を認めるだけでなく家を継ぐこともしなくていいと言って
家のしがらみからマリーを解放する結論に至りました

本シリーズにおける2つの前提のうち、病気という要素はどうしても崩せないとすれば
結末を明るいものとするためにはもう1つの前提である千花の真意が翻ることが必要だったわけですが

すなわち、はじめは頑なにマリーを縛り付けることを考えていた千花が
どのようにしてその凝り固まった心情を溶かしていくのか

マリーに対する楽の返答およびそれへのマリーの反応とともに、このことも本シリーズで描かれなければなりませんでした

冷えきった親子関係
冷めきった感情

それらがどのようにして解決されていくのか

病気と約束というマリーの事情が開陳された時点で読者が想像したシリーズ展開は、
楽たちがそんな理不尽な約束をぶっ壊して千花をやり込める爽快な展開か、あるいは
楽たちの行動とマリーの言葉によって千花が翻意し、解り合うという温かな展開か
そのどちらかでした


しかるに、実際の展開はそのどちらでもなく、いうなれば両方の要素を備えた中途半端なものでした

楽たちは、結婚式を壊してマリーを取り戻すことには成功しましたが、それで千花をやり込めたというほどには爽快ではなく
かといって、最終的に翻意はしたもののその結論へ至る千花の心境の変化には唐突感があって

千花にはもう話が通じないからと実力行使に出た楽たちと、その様子を見て何やら思うところがありながらも
それでも頑なな態度を崩さずに、最後の電話でもあっさりと「お前なんか嫌いよ」と言ってのけた千花

ここのね

ここの変化の部分が、圧倒的に描写不足なんですよね


一体どんな風にして千花を翻意に至らせるのかと思っていたら、楽がマリーを連れ出した最後の最後まで
千花は頑ななままでした

そこに最後の一押しを決めてくれたのが、旦那であるマリーパパ
巌ですね

あの子に凡矢理高校へ通うことを許したのは、君にも高校生の思い出があるから
あの子だけが特別なんじゃない
同じように抗う力が、思うままに突き進もうとする力が君にもあるはずだ
今からでも遅くない、足りない分は力になる

巌のそんな言葉が後押しになったのか、千花はマリーに電話して
お前のことが嫌いだからとっとと体を治して好きにすればいいと告げるに至りました

この巌のセリフですよね

ぱっと見には何か凄くいいこと言ってる感じなんですけど、でもよく考えると

今さらおせーんだよって感じもしてきますよね


千花と巌の始まりが、今回のマリーの結婚式のように望まない形のものであったのかはわかりませんが
しかし巌の方は、牢の中で楽に向かって明言できるほどに千花への愛情を持っていました

千花もまた、巌に言われた言葉で心境の変化が後押しされるくらいには巌に対して情があるようです

であれば、なぜもっと早くマリーの処遇を考え直すことができなかったのか


最初は政略結婚だった自分たちも、いつのまにか互いを思い合うようになったのだから
マリーと鉄鋼王もいずれ、とか思ってたんでしょうか


たらればを言ってもあんまり意味は無いんですけど、すごく冷静になって考えてみると
巌が千花に対してもっと働きかけができていればこの事態は防げたんじゃないかとも思うんですよ

楽たちの突撃とそれに応じたマリーの様子を見て心揺らした千花の胸に、巌のたったあれだけの言葉がすっと入り込むのであれば
もっと早くから巌が千花に説得なり何なり本気でやっていれば、こんな大騒ぎにならなくてよかったんじゃねーの?と

批判的に読もうとする人たちにとっては、巌の最後のあのシーンって

ラストにしれっと出てきていい話風にまとめようとしてんじゃねーよ、
そもそもお前がもっとちゃんとしてたら千花の意識も早くから変わってたんちゃうんか


…と捉えられなくもないわけで

結婚してからマリーがここまで育った10数年
「愛しているんだ」と思い始めたのがどの時点からなのかはわかりませんけど
そんだけ深い愛情があるんならもっと早くに千花の心を温めることができたんじゃないかと

そんな風に考えることもできますよね


マリーの「結婚相手」だったバツイチの鉄鋼王という男が、そんなに悪い人でもなさそうだったことが
さらに話をややこしくします

マリーの事情と合わせて、早速決まっている結婚予定相手として御影から「40代バツイチの鉄鋼王」と聞いた時
おそらく大多数の人が「女にだらしのない下品なおっさん」みたいなイメージを持ったのではないでしょうか

しかし実際には、穏やかな口調で「今日から、よろしくお願いします」と語りかけたり、
誓いの口づけの時に「本当にいいんだね」とマリーを気遣ったり、すらっとしたシルエットも相まって
下品なおっさんなんかではなく、むしろダンディなナイスミドルといった人物像が認識できました

バツイチというのも死別によるものであり、その奥さんをまだ愛しているかのような誠実な素振りさえ見せていました
そもそもマリーとの「結婚」も彼が望んだのではなく千花の思惑により設定されたもので、本心では彼自身は
断りたかったという気持ちすら吐露していて

それでもやむなく「結婚」を受け入れたのだから、「妻」となるマリーをきちんと大切にしようと考えた
死別した妻の形見である指輪をマリーの薬指にはめたことからは、そんな決意も窺うことができます

少ない描写の中で妙に光る彼の人間性
この人Yさんじゃねーの?と考える人まで現れたりして、鉄鋼王に対するイメージは最初と真逆になっていました


だからこそ、千花の真意がわからなくなるのです

条件に負けたことによる即日の強制結婚
その相手としてなぜ鉄鋼王の彼が選ばれたのかは、結局最後まで説明されませんでした

しかし彼の人格を見てみると、千花は少しでもマリーを幸せにしてくれそうな人を選んだのではないか
考えることも不自然ではないんですね

橘家と彼との具体的な関係が全然わからないので何ともいえませんが、鉄鋼王の言葉を聞く限りでは
この結婚は政略結婚としての側面ばかりではないような気もしてくるのです

とすれば、そんな相手を選んだ千花の真意には、程度は低くても実は娘に対する愛情というのが存在するのではないか
そんな風にも考えてしまうんですね

だとするならば、「はじめから考えていた」と言ってマリーに跡を継がなくていいと告げることも納得がいきます
ただそうなると代わりに、シリーズ序盤の辛辣な態度がおかしくなってくるんですが

結局、千花は家とマリーをどんな風にしたかったのか、
シリーズが終わった今となっても今いちよくわからないのが正直なところです


さらに

鉄鋼王が何かいい人っぽいと読者が思ってしまったことによる副作用がもう1つ
その発生によって九州編の出来がもっと悪くなってしまった面がありますね

何って、このシリーズのヤマ場となるシーンに「結婚式からの花嫁連れ去り」を持ってきてしまったことです

普通なら、ヒロインを誰より強く想う主人公が、望まぬ結婚を強いられようとしているヒロインを救うために
なりふり構わず結婚式に乗り込んで大騒動の挙句ヒロインを連れて去っていくというのがこの展開の王道パターンです

しかしそれをマリーと楽でやろうとすると、どうしても無理が生じてしまうんですね

理由は言うまでもなく、楽はマリーの気持ちに応えるつもりがないからです

付き合うつもりのない女の子の結婚式に乗り込んで強引に連れ出そうとする
望まぬ結婚であるとはいえ、上記の王道展開が強く頭にある読者にとっては
楽のこの行動はどうしても腑に落ちないものが残りました

結婚式のその場に乗り込んでまで、後先を考えることなく「自分のほうが彼女を愛している」なんて言ったりして
花嫁を連れ去っていく王道のパターン

そこでは、何がどうなろうとも「俺は君を愛している」といった強い気持ちが感じられるものであり
花嫁自身も連れ去られることを喜ぶことで、自分もまた同じ気持ちであることが示される

想い合う2人が何が何でも結ばれようとする強い衝動にこそ、王道と呼ばれるに至る魅力が込められていると言えます
なんて説明するのも変ですけども…


然るに、九州編の場合
小野寺さんを好きな楽はマリーの気持ちに応えることができないとはじめから心は決まっていました

友達として助けに行こうとするのに、他の作品では添い遂げるつもりの相手に向かってやることを実行する

小野寺さんやマリーが認識しているような楽の性格からすれば、これは相手との関係性にかかわらず全力で誰かを助けようとするという
楽の本質が発露しているものであり、作中で描かれてきた楽のキャラ性としては一貫しているものと言うことはできますが

それでも王道のイメージが強いことを考えれば読者の中にはどうしても違和感が残ってしまうことは火を見るより明らかでした

そんなことは古味先生にも担当編集にも想像はついたでしょうに、どうして他の展開が出来なかったのか
古味先生がどうしてもそういうシーンを描きたかったのだとしても、マリーと楽では不自然になってしまうことは
理解して然るべきだったはずです


描きたいものはわかるがちぐはぐだった


評価として表現してみるとすればこんな言い方になるでしょうか

読者の期待通りマリーの恋にひとまずの決着がつけられる展開が描かれ、マリーもまたそれを受け入れて
決意も新たにまずは体を治すことに専念する…という落ち着いた結末を迎えた本シリーズ

しかしその中身は、最低限描かれるべきものが描かれたことはいいとしても
そこに至るまでの過程において、どうしても疑問符が拭えないものとなってしまいました

家庭の事情からのマリーの救済というのは、実は元から難しかったという面はあります

マリーは人生を懸けて楽に対して向きあおうとしていたのに、楽の方はその気持ちに応えるつもりがはじめから無かった

ならば、その返事を告げた後にマリーがどうなってしまうのかということについては
楽自身が関わろうとすることはどうしても違和感が生じざるを得ないものでした

もちろんそれはシリーズの最初に楽自身が感じ取ったことでもありましたが、その疑問に対して作中で示された(と考えられる)のは
「そんな細かいことは関係ない」というもの

付き合うことは出来なくても大事な友達であることには変わりない
友達が困っているのなら助けに向かう、それは当たり前のことだと

そのロジック自体だけならこんなにも釈然としないことはなかったはずなのに、
その気持ちで向かった先でやったことが結婚式からの花嫁略奪という恋愛っぽいことだったから
疑問符がまた大きくなってしまうのです

しかも新郎となる相手の男性はそんなに悪い人でもなさそうという

これでは、結婚式から「友達」を連れ出しに来た楽の行動に読者が入り込みきれなくなるのは当然ですね

楽に対するマリーの気持ちの大きさが分かっているとしても
冷たい母親のもとで籠の鳥のように暮らしていかなければならないとしても

病をおして振り向いてくれないとわかっている楽を追いかけ続けるよりはいいんじゃないのか
との気持ちがどうしても生じてしまうからです

ここなんですよね

楽たちによるマリーの救済を、劇的で感動的なものとするためにはここが重要でした

すなわち、約束に敗れた結果マリーが負わされることになる今後の運命が
病をおして振り向いてくれないと分かっている楽を追いかけ続けることよりも遥かに辛く苦しいものであること

そうであればこそ、恋人にはなれないけれども友達だからと危険を顧みずやって来た楽たちの行動に
読者は震えることができるはずでした

御影がマリーの事情を語った最初こそそんな雰囲気でしたが、しかし
シリーズが進むに連れてその様相は変わっていきます

楽の前に現れた千花の態度は、聞いていた通りの冷酷な人物像でしたが
それでもマリーの味方であるはずの巌が「愛しているんだ」と堂々と言えるくらいの女性であること

その千花が選んだ結婚相手が、想像していたよりもかなりいい人であったこと

楽たちの行動にはひたすら抵抗しようとした千花の最後の結論が、よくわからないままマリーの希望を叶えるものであったこと
もちろん楽たちの行動に影響されたと捉えることはできますが、その因果が全くわからない上に
「はじめから考えていたこと」とまで明言されてしまっては、ますます千花はマリーをどうしたかったのか真意がわからなくなってしまいます


すなわち、シリーズが展開していくに連れて前提条件を自ら曖昧なものとしていったことが
九州編に対して疑問が拭えないことの原因でした

こんなことでは、シリーズの出来としてはやはりよろしくないものであると言わざるを得ないでしょう


とは言え、それはあくまでもシリーズ自体についてのものであり
マリーのみに注目して見てみれば、彼女にとって最良の結末になったことには変わりありません
その一点においては良い展開だったと言うことができるでしょう

作劇としては結論と同等に過程も重要であることは間違いなく、過程が結論に与える影響も間違いありませんが
マリーという1人のヒロインへの読者感情としては、体も治せる上に自由も保証された結末は
最良のものであったと考えられます

因果関係や相関関係はわからなくても、きっと楽たちの行動があの冷たい母に何らかの影響を与えて
結果、自分の運命は180度変わった

高校2年生、17歳を迎える直前なんて時に、この先死ぬまで母のもとで籠の鳥であることが確定していたことを思えば
ありえない知らせだったことでしょう

そしてそれは、確かに楽たちのおかげであること

御影の計らいによって楽と再会出来て、その口からしっかりと返事を聞くことが出来たこと
それに自分の言葉を返すことも出来たこと

さらに、望まぬ結婚から助けだしてくれて、何故かはわからないながらあの冷酷な母が前言を翻したこと

「友人たち」の行動がこんなにも自分の運命を変えてくれたことが驚きで、嬉しくて、仕方がない

そうしたマリーの気持ちを考えると、九州編を一概に悪く言うばかりにもいかないでしょう

シリーズが展開していく中で前提がだんだん曖昧になっていったと上述しましたが、
それはこのシリーズを劇的で感動的に描くために必要だったことであり、ことさらにそれを意識していなかったのであれば
その限りではありません

すなわち、この九州編で読者を大感動させようとか号泣させようとか古味先生が意図していたのでなければ
前提を曖昧としていったことについては意識的だった可能性も出てくるわけです

もちろん、商業作品ですからそれなりに劇的で感動的に描かなければ人気がついてこないという側面はあります

しかし、ただマリーと「友人たち」の繋がりを描くことを優先したのならば
実際に描かれた内容でも実は悪くないんじゃないかとも思えるわけです

細部の雑さによる完成度は別としてね


なので、ここまで長々と語ってきましたけども

九州編に対する俺の評価を述べるとするならば、シリーズ自体としては完成度が低いが
マリーというヒロインのみに注目して見てみれば、決して悪いものではなかった
ということになるでしょうか

自分でも難しいニュアンスで言っているなと思いますが、伝わりますでしょうか




COMMENT▼

No Subject

ものすげえ語ってる(^^;

いや確かに分かりますけど。
病気の設定とか。
アメリカだけかい!(メ`皿´)メ⌒┻┻
と思ったり。

まぁ、とは言っても僕は最後にマリーえがったなぁとだけ言っておきます。

No Subject

>冷たい母親のもとで籠の鳥のように暮らしていかなければならないとしても

この認識も実際は違ってましたよね。
まず子供の都合で転校させてもらえる時点でとても寛容。
好きな相手との結婚も認める。
作中に登場後も特に生活に制限掛けられてるようには見られず、初日の出見たさの海外旅行と贅沢のかぎり。
結構あっさり家も解体できるみたいですから、謎のしがらみもマリー自身が当主になれば多分どうにでもできる。
言うほど縛られてるようには見えないんですよね。

それに拉致もしたことのある娘と比べると母親のが常識人の感じがします。

No Subject

歪んだ母の考え方を正したってカタルシスに欠ける展開でしたよね。
結局平行線のままに見えてしまうのが問題だったかと。

さらにぶっちゃけたら病弱設定自体がいらなかったのでは…と思ったり

なんとまあ珍しい…

包むオブラートがかなり薄いwww

しかし、薄いのも納得がいくくらい酷い出来でしたからね。
・病を押して強行したマリー
・嫉妬心から娘の事を認められなかった千花
・千花と娘を想い行動していた巌
3人の動機が薄くて薄くて薄氷や湯葉の方がまだ厚いんじゃないの?って程に薄かった。
記事内のこの言葉が全てを語ってますね。

「そもそもお前がもっとちゃんとしてたら」

お前とは巌ですね。
1.治療可能な病院を性急に掌握することを千花に打診。
2.「2年」で済むのだから静養して完治してからにしろとマリーを説得。
これで済んだ話。これを不可能にする設定として
1.最近になって治療が可能になった難病
2.巌の言葉に全く耳を傾けない千花。足掻いても無駄と高を括って静観していただけ。
3.最先端医療が可能な病院の経営権を鉄鋼王が握っていた。交換条件にマリーを求めた下種野郎
辺りが考えられます。もう一度言いますがこれで済んだ話。
たったこれだけで読者の感情移入度合いは格段に違っていたでしょう。

ところで…マリーが離脱した今Yさんはどうしてるのでしょう?ニセコイ離脱しちゃったとか?

No Subject

たぶん、作者も困ってたんですよ
マリーは真剣でまっすぐで・・・悪い言い方になりますが『重い』ですから
そのマリーを振ってしまったら楽はどうあっても悪者になっちゃいますもん
けれど、どうにかしようと足掻いた結果が九州編なんだと思ってます

・・・でも、もうそろそろ許してほしいというか、ハイハイ!もう終わり!辛気臭い反省回は終わり!九州編のことは忘れよう!切り替え切り替え!、と思います

ラグエルさんへ

人気投票で花束と特注のガラスの靴を票代わりにマリーに送ってましたよ

九州編がこんなことになってしまった理由
マリーの父巌の件もそうですが、そもそも九州に連れ戻される前にきちんと楽が
マリーの気持ちに区切りをつけていれば
こんなことにならなかっただろうと俺は
思っています
ヒロインのマリー自体には何も罪はありません
本当に悪いのは男共と仕方ないとはいえ家庭の事情で色々拗らせた千花さんが原因であると俺は考えます

マリーの罪はなくはない

男共や千花に比べれば軽いですけどね。

完治した後、チャンスを下さいと「父親と共に」千花を説得すれば良かった。

病気の完治は子を産み家名を繋ぐ点で千花にとっても不利益な話ではない。
そこを論点にすれば説得は容易。チャンスに関しても高校在学中に結果を出せなければ従うと
偽りのない覚悟を見せれば千花の性格から鑑みても通る話。
要は「覚悟の仕方を間違えた」のがマリーの罪ですね。そしてそれを正さなかった巌は大罪人w

No Subject

そもそも楽を悪者にしたくないと足掻いたのが全ての元凶でない?
万里花の重さがあったにせよ楽の万里花への態度は褒められたものじゃなかったわけだから、フったらそりゃ読者のヘイトが向けられるのは自明の理
だから万里花の家庭問題を思いっきり大袈裟かつドラマチックに盛り上げまくり、そのドサクサに紛れてそういう印象の悪さを誤魔化そうとしたように見えるわ
元から大掛かりな展開にしようという心積もりをしてたなら千花との確執ぐらいは前々から臭わせおくのが自然だし

No Subject

とある映画批評サイトからの引用ですが「観客というものは、愚か者のキャラクターが大嫌いなのだ」というものがありまして。

九州編の粗は、これと設定構築の甘さが悪い方向にかみ合った結果だと思うのです。

>>alminさん
楽の「恋愛感情には応えられないけど、万里花は大切な人だから、望まぬ結婚をさせられるなら助け出す」という行動理念はいち高校生としてはまぁ理解できないものではないです。

ラグエルさんが仰っていたように橘家の突っ込みどころを修正していれば、まだ筋は通ったのではないでしょうか。

Re: No Subject

皆様コメントありがとうございます。

やはり九州編については、色んな人がいろんなことを思っていらっしゃるんですね。
常連さん以外の方もこんなに登場されてくるとは思っておりませんでした。

どのコメントのどの指摘が間違っているとか間違っていないとか、そんなことはここではいう必要が無いと思います。きっとどの指摘も、一理あることなのでしょう。一番端的に言うとしたら、古味先生の描き方が本当にまずかったということになろうかと。

半分ギャグみたいな扱いだったから記事中では触れませんでしたが、フグの調理免許持ってるというのもおかしな話というツッコミが随分前からありましたね。2年以上の実務経験が要るという。その2年を治療にあてろよ…という冷静なツッコミが生まれておりました。


Yさんは…別にニセコイを離脱なんてことはしていないと思いますよ。マリーの誕生日にガラスの靴を贈っていたというのもそうですけど、推しヒロインが離脱したからってそれで作品を見限るような底の浅い人ではないだろうと思っております。

おや?

この記事ってニセコイ「コミックス記事」なのでは?
分類が「若干の考察シリーズ」になってますよ。

Re: おや?

そんなところまで気にしてくださってありがとうございます。

ですが、これでいいのです。
コミックス感想と考察シリーズと、どちらのカテゴリにしようか迷った結果、考察の方にしました。22巻としては千棘の話も収録されているので、九州編についてばかり言及した記事であることを踏まえると考察のほうがいいかなと思ったのが理由です。

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