社会の毒 ―少年漫画症候群(ジャンプシンドローム)―

読んだらもう1回作品を見返したくなる、そういうレビューを私は書きたい

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新しいスーツが欲しくなる そんなマンガがあります

服というものにさっぱり興味がありませんでした

子供の頃はもちろん、大学生になってもそれは変わらず
シャツとズボンの組み合わせを考えるのが面倒で
上から下まで黒ずくめの格好をしてたりしました

しかしこのマンガを読んでそれが損だと気づきました


01コミックス1巻s




王様の仕立て屋 ~サルト・フィニート~



舞台はイタリア・ナポリ
そこで一人居を構える服の天才職人・日本人オリベユウの活躍を描きます



そもそも服を着るとはどういうことなのか

寒さ熱さの調整のため?
もてるため?
素っ裸は捕まるから?

これらも立派な理由でしょう
しかし、この作品においては違う考え方が示されます



02再確認s

ファッションに対する解釈は人それぞれだが
毎日鏡に向かって身だしなみを整えるのは
自分が何者であるのかを再確認する儀式なのでは
あるまいかと



高校生が制服を着るのも
メイドさんがメイド服を着るのも
看護婦さんがナース服を着るのも
ビジネスマンがスーツを着るのも

自分が誰であるのかを理解するため

服とは、自分が誰かを規定し、さらにそれを見る周りに知らせる効果を持つと言えるのです

だとするならば、服を変えれば自己の規定が変わり
それを見る他者の認識も変わり
自分と他人が変わった結果としてその後の運命すらも変わる
そんな可能性も否定できないのです

そうであればこそ

服が変われば人生が変わるのです

また、服を変えることによる変化は見た目だけではありません
自己の認識が変わることで、自分に自信が持てるようになる

極端に言えば、安物の量産品よりも高級ブランド服に身を包んでいる方が
堂々と出来るはずだし、行動も出来るはずというだけのことですが
服を変えるだけでそれだけの違いが出るわけです


そして
仕立て屋とはそのための
その人のためだけの服を作ることのできる
職人なのです

仕立て屋

"裸の王様"
ありゃあ仕立て屋に化けたイカサマ師が王様を騙すっていう
まあ仕立て屋にとっちゃ不名誉な物語だが
穿った読み方をすればな
仕立て屋は王様でも手玉に取れるって話でもあるのさ



これが、このマンガのタイトルの意味です。


服を変えれば運命が変わるとしたら
その服を作ることのできる仕立て屋は
王様さえもその手で転がすような力を持つ

だからこそ
この作品に描かれる天才職人オリベの活躍に
心が震える

仕立て職人の手による服を依頼人が身に纏った時
運命のいう名の王様が手玉に取られる
その瞬間を目撃することができるのです



愛用の鞄に似合う紳士服が欲しい

愛用の靴下に似合う紳士服が欲しい

着ればマフィアのドンとしての貫禄が出るスーツが欲しい

上場企業の会長さんに直談判する時に着るスーツが欲しい

映画で演じる役のイメージに合う服が欲しい


些細な動機から複雑な感情による要望まで
オリベは、こうした依頼人の全てと丁寧に言葉を交わし
依頼の原点を探ります
そうすることで、依頼人の気持ちに本当に応えられる服を仕上げるのです

そこにあるのは、王様をも手玉に取れる仕立て職人としての彼のこだわり


04最高の状態で

客の希望を最高の状態で演出したらどんな物語が転がるのか
そんな事を想像するのも仕立て屋の楽しみだったりするのさ



職人が作る服は、依頼人のためだけの一着です
きっちりサイズを合わせ、仮縫い(試着)を繰り返して
最高の状態に仕上げるそのこだわりは
依頼人は生身の人間であり
世界にただ1人だけの人間であるということを理解しているが故


saisuns.jpg

仕立て服ってのは金も手間もかかるが
他人には合わないから古着屋に卸しても二束三文だ
つまりは採寸した時点でこれはお客様の物
職人やメーカーの都合なんぞどうでもいいのさ




そんな彼の腕を頼りにしている人々が依頼人以外に大勢います

イタリアミラノ貴族がトップデザイナーを務めるブランド「ペッツオーリ」
フランスの感性とイタリアの技術を融合させた「ロスタン」

そして、彼が居を構えるナポリに新店を立ち上げた
新興のブランド「ジラソーレ」(ひまわり)

このジラソーレ、女子大生達のサークル活動から発展したブランドということで
会社の幹部たちが全て女性達で構成されています
そしてこれが揃いも揃って美女ばかり

07ジラソーレs



むしろ幹部が女だけのファッションブランド会社なんて
作中に何人もの美女を登場させるためにはなんと都合のいい設定でしょうw

初期に登場するのは6人ですが、創立メンバーは全部で12人
彼女たちの存在を抜きにしてこの作品を語ることは出来ません

なぜなら、彼女たちと関わるようになったことで
オリベの腕と評判がヨーロッパの各地域と各層に伝わっていくからです

イタリアトップブランドデザイナーから
イタリア貴族にイギリス貴族
さらには石油王まで

いつの間にかジラソーレの顧問やアドバイザーのような形になっていくオリベ
新興ブランドである彼女たちは自分たちの手に負えない難しい注文を受ける度
彼の意見を聞くため足繁く通います

08頼りはオリベs

09頼りはオリベ

オリベに頼りまくりなジラソーレの女性達ですが
彼を単なる便利な知恵袋と考えているのではありません

簡単に彼に頼るのを潔しとせず
どうにか自分たちだけでやってやろうと意地を張る社長

彼を尊敬し、その技術をどうにか自分のものにしたいと
弟子入りを志願した支店長

また、オリベを本気で好きになり、
自分の夢すら揺らしてしまった元スーパーモデルもいました


彼女はオリベを評してこう語ります

091不思議な人s

異国からたった一人でふらりと現れて
気負いも気取りもなく
身につけた職一つで業界をスタスタ歩いて
いつしかセレブリティの信頼を得てしまう
不思議な人



092安心感があるのよs

二十年後 五十年後
どれだけ人や流行が変わっても
いつでもナポリに逢いに行けば
彼だけはそこで相変わらず
同じ仕事をしててくれるような安心感があるのよ








それなんて俺の理想?







天才的な腕と技術を持ち
美女達から頼りにされ
そのストイックさにものすごい信頼を寄せられる



厨二病が治っていない俺としては
どう見ても理想像です本当にありがとうございました



もちろん彼女たちの存在意義はオリベの引き立て役というだけではありません
幹部全員が若干20代の女性達であり
過去にはスーパーモデルとして活躍したほどの美貌を持つ彼女たち
話が進むにつれて、服にこだわる美女は次々登場します
そんな彼女たちの存在意義がそれだけであるはずがない
そんなことは俺が許さん






そうです








10カプリ島

11カラー

12パラダイスですか




パラダイスですヒャッホウウウウウウウウウウ!!!!!!!




作者大河原先生はしっかりわかっていらっしゃる模様
折に触れてジラソーレの女性達のサービスカットが盛り込まれ
作品に華やかさを添えてくれます

たとえばこんなのとか
13ユーリア

こんなのとか
svs.jpg


こんなのとか
15アンナs


ん?
どうしてブランドの社員がウエイトレスみたいな格好してるのかって?
決まってるじゃないか


さて、それ以外にも本作品にはアニメやネット系の描写も
時折出てきたりします


16平野綾s

背景にさりげなく某人気声優が出ていたり

17同人誌

まさかの秋葉でフィギュアや同人誌に大興奮してみたりと
いわゆる俺みたいな層には、大変読みやすい作りになっております


それ以外にも、紳士服をテーマとしているだけあって
服に関する話は盛りだくさん

何よりも、着こなし方、合わせ方に関する場面と説明が多いのです
そう言った方面に全く疎い身としてはもう新鮮で新鮮で



cord1s.jpg

シルエットはモダン寄りの2ボタンスーツ
ラペルは細くVゾーンが深い
白地にブルーの大柄チェックワイドシャツに
やや太目の水色ニットタイ
シャツのほぼ180度ワイドカラーと広いVゾーンで
風通しの良さを出している
白地に水色の縁取りチーフを
無造作なTVフォールドで堅苦しさをわざと崩し
白と青の寒色系が中心のスーツに
靴はこげ茶のロングノーズプレーントゥ
涼しげな生地にマッチしたコーディネートですね



cord2.jpg

ブルーの2ボタンスーツ
ロンドンストライプシャツにネイビーソリッドタイの
さっぱりとした組み合わせを強調
ネクタイは流行に左右されない8.5センチ幅
クリーム色チーフの柔らかな印象で
交渉の場の角を丸くしている
足下はブラウンのチャッカブーツで
暗くならずに全体の落ち着きを持たせている
高いゴージラインとナポリ仕立て特有の
堂々としたラペルがVゾーンを広く見せ
着ている人をオープンハートな印象に仕上げている
現代の2ボタンスーツは上のボタンの位置が
3つボタンスーツに近くVゾーンは狭い
だがナポリ仕立てが得意とする段返り3つボタンは
Vゾーンが広い2ボタンのバランス
これを元にして体にできるだけ添わせる事で
ごく自然に胸襟開く印象を相手に与える
目立たないが絶妙の職人技だ




職人が作り上げた服を実際に着てみた依頼人の立ち姿と
その印象が、細かい要素を元にして詳しく説明されます

Vゾーンの広さ
ラペルの広さ
ゴージラインの位置
チーフの形
シャツの柄
上着のボタンの数
靴の形
全体の色調

それらあらゆる要素が絡み合ってその服を着た印象というものが
決まっていくのです



正直さっぱりわからんというのもまあ当然の話
それはマンガという表現の限界も関係しています
絵として描かれるマンガではどうしても表しきれない部分があるのです

スーツ生地の質感だったり厚さだったり
体へのフィット感だったり
見た目の色や柄でさえもトーンで描かれるだけでは
どうにもわかりづらかったりするのです



だからこそ、自分でスーツを注文してみたくなる



例えばジャケットの上襟と下襟の縫い合わせ線であるゴージライン
それが高い位置にあるか低い位置にあるかによって
見る人の印象が違うといいます

作中でも少し解説されていますがこんな感じだそうな

ゴージライン


フルオーダーで細部にこだわった注文を出すのは難しいかもしれませんが
既製服でも並んでいる商品を比較するのに知っておいて損はないでしょう

細部のちょっとした部分を違わせることで
全体の印象が大きく変わるのだとしたら
それはつまり、自分が相手にどう思われるかを
ある程度コントロールできたりする
ということなのです

就職活動で
商談で
普段の仕事場で
ちょっと違うスーツを身に纏ってみる
それだけで周りの見る目が変わる
自分の気持ちも変わる
そうすれば運命も変わる  ……かもしれない


その他服の手入れに関する実用的な話題や
19アイロンs


ほとんど雑学に近い蘊蓄まで取り揃えて
18靴s



知識欲をこれでもかと刺激してくれます


コミックスは現在32巻
さらに2011年12月より、新創刊のグランドジャンプPREMIUMにて

王様の仕立て屋 ~サルトリア・ナポレターナ~

とタイトルを変えて第2部が開始されており
すでにそのコミックス1巻も発売されています


サービスシーンあり
知識欲を刺激する蘊蓄あり
こだわりにこだわる男の世界あり
サービスシーンあり

これほどの密度を持ちながら
全く飽きさせない作りと展開は、まさに娯楽作品と呼ぶにふさわしい




全身全霊でオススメします






Kindle版は以下から








第2部コミックス1巻のレビューも書きました
こちらからどうぞ





[タグ] 大河原遁




夢を描けるマンガ家 その名は古味直志

若手な作家さんを応援したい気持ちいっぱいで書いてみました


最初に取り上げるのは、

01_作者



古味直志先生


そうです
現在ジャンプで「ニセコイ」を絶賛連載中の古味先生です

02_ニセコイ新連載



今までのレビューを見て気づいてる人は気づいてると思いますが
私は古味先生の作品が大好きです。
作家特化記事なんてものを描こうかと思った時
1番にその候補に浮かんできたのも古味先生でした

赤マルジャンプ2007年winter号に掲載された
古味先生のデビュー作「island」
この作品が他の新人作家さん達とは一味も二味も違っていたんです
本当にこれがデビュー作なのかと疑うほどに


03_island_20120715154858.jpg



作品からにじみ出る圧倒的なワクワク感
この人が描いた作品をもっと読みたい
そう思わせられる程に強烈でした


周囲を巨大な壁に囲まれた島に暮らす中で
その壁の向こう側、「外の世界」へ行くことを夢見る一人の少女マルーが
主人公のこの作品

彼女は他の島民にはできない特技「文字を読む」ということができました
壁に閉ざされ、文明をなくした彼らは文字をも忘れてしまった
そんな中で何故か文字を理解できた彼女は、遺物として遺っている
何冊もの本を読んで過ごすのが日常でした

そしてもう一人、おてんばで活発な少女アイラ
周りのことなど考えず、「偉大な実験」と称して
壁を乗り越える方法を夢中で探す彼女は
大人達を困らせ、いつも怒られてばかりいました
準主人公としての位置づけを持つこの少女は、マルーと同じ夢を抱いており
この二人を軸にして物語は展開します

04_マルー

05_アイラ



少年誌にあって主人公二人ともが少女というところからすでに
あまりないことですが、どうしてどうしてその辺の読み切りよりも
少年マンガしてるんです


45ページという短い中にしっかりと
夢を抱く二人の希望と挫折が描かれていきます。


「外の世界」という夢を通じて繋がる
二人の希望と
06_二人の希望



07_絆



そして

挫折
08_挫折



それは突然やってきました
「実験」の材料として窓を割ってしまったアイラに対し
島の長老が急に「外の世界を見せてやろう」と言ってきたのです
困惑したまま連れて行かれた先で
言われるままに見せられたその光景は
アイラの希望を奪ってしまうものでした

長老がアイラにその光景を見せた理由
それは「その日がアイラの14歳の誕生日だった」こと
14歳で大人と見なされるその島では、その誕生日を期して
ある事実が告げられることになっていたのです

せめて子どもの間だけは夢を見ていられるように

そしてアイラはもう一つ、重大なことに気づきます
「じゃあ、島にいる自分より年上の大人達は…」


自分たちの夢に理解を示さず
ただ叱りつけるだけの大人に憤りすら感じていたのに
彼らはすでに知っていた
「外の世界」を
その場所がどうなっているのかを

「外の世界」の現実と
大人達の真実に
アイラは愕然とします

そして
望まぬ形で現実を突きつけられたアイラは
心配してやってきたマルーと動揺のままに言い争いになります

知ってしまったらもう知らない頃には戻れない
夢見ていた、そして現実に見てしまった「外の世界」を
怖いとすら語ったアイラに、それでもマルーは問いかけます

09_言い争い


しかし、希望を見失ったアイラは
こう答えるしかありませんでした

10_だったら



純粋に夢を思い描いていた二人の前に突然訪れた挫折と葛藤
周りの大人達もかける言葉を見つけられず沈黙します

現実の重さに押し潰されそうなアイラ

しかし、マルーは違っていました

ただ一人、文字を理解できたことで大人達が知らない知識を持った彼女
そこにはかすかな、しかし確かな希望があったのです

マルーは言います
どれだけ掛かっても
どんなものでも
ありとあらゆるあらゆる本を持ってきて欲しい
その全てを自分が読み通して、みんなを「外の世界」へ必ず連れて行く
できないなんて言わせない




11_だってみんな子供の頃は


だってみんな子供の頃は それが夢だったんでしょ?




これです
この作品の最大の魅せ場
最初にこの作品を読んでいたあの時
もうこのコマにどれだけの衝撃を受けたことか
鳥肌が立ったことを鮮明に覚えています

それは、ただ自分たちの夢を諦めないというだけのものではありません
かつては子どもだった大人達への痛烈な問い掛けであり
忘れてしまった夢を思い出させる起爆剤だったのです

現実と真実に抵抗せず、「今」を生き抜くことを選んできた大人達
しかしそれを知ってもなお希望はあると語る少女に
ここまで言われて黙っていられようはずもありません。

あの頃の気持ち
あの頃の夢
あの頃の誓い


それが一気に甦ってきた彼らはマルーへの協力を約束します

そして

どのくらいの時間が経ったのか
作中で明示されてはいませんが恐らくそれほど長い期間ではないのでしょう

今度は大人達と、さらにマルーとともに再びその光景を前にしたアイラ
その目にはかつて奪われた希望が確かに宿っていました

12_今はこんなに

初めてこの海を見た時はあんなに絶望的に見えたのに…
今は…
こんなにワクワクする







…もうね、なんというか
清々しいにも程があるんですよ
読み終えた後のすっきり感といったら
それはもう一発でハマってしまいました


ド直球に純粋
青臭さ丸出し
しかもそれが大人まで巻き込んで

少女二人を中心にした作品でありながら
これだけの夢と希望を描ける作家
それが古味直志先生です

この「island」が掲載された赤マルジャンプの巻末目次
作者コメント欄で古味先生はこう語っています

13_作者コメント

夢のある話が描きたいです。
子供が夢中になってくれるような。





「island」を読んで夢全開の古味作品にハマった私
古味作品が連載されるのを今か今かと期待していました

そしてついに待望の連載が決定します
その作品とは

14_ダブルアーツ新連載


そう
ダブルアーツです

待ちに待った古味先生の初連載
一体どんな作品が来るのかと予告を見た瞬間から
楽しみで楽しみで

ええ
そりゃあもうすぐに買いに逝きましたよ
連載開始号のジャンプを
そして家にすっ飛んで帰ってドキドキでいざ表紙をめくってみましたとも


15_禁じます

トイレの時
お風呂の時
寝る時
1秒たりとも
つないだその手を離す事を禁じます!











イヤッホウ




素晴らしい以外に何と言えばよいでしょう

24時間1日中ヒロインと手を繋ぎっぱなしにすることを
強制されるという夢のような状況
夢のようなっていうかむしろ夢です


夢のある話が描きたいという古味先生
連載1作目にして夢全開のお話を持ってきてくれました

しかもこの作品
いつか連載する時のためにと
古味先生自身が子供の頃から構想を練っていた物語だとか
その中身がヒロインの少女と手を繋ぎっぱなしという設定だなんて
どれだけ夢見てたんですか子供時代の古味先生
そこにシビれる憧れる


肌と肌が直接触れることで感染してしまう謎の伝染病「トロイ」が
蔓延する世界
世界中でその治療のため活動するシスターと呼ばれる女性達
少女「エルレイン」もその一人だったが
治療の結果として彼女も「トロイ」に感染し、ついに発作を起こしてしまう

もうだめだと思ったその刹那
村の少年「キリ」に手を捕まれた瞬間ピタリと止まった発作
何故かわからないが少年に触れていると発作を抑えられるらしい
本来なら一度発作が起きれば助からないこの病気
じゃあ少年とずっと手を繋いでおくしかない

なんかいろいろ小難しい設定があるように見えますが
この作品の核はたった一つ
それは

少年と少女はずっと手を繋ぎっぱなしでなければならない

それだけです

その状況を作り上げるために手の込んだ設定を考えたと言っても
過言ではないのです

出会ったばかりの美少女とずっと手を繋いでいなければならない
こんな夢のような状況があるでしょうか


24時間365日

トイレの時も
16_トイレの時



お風呂の時も
17_お風呂の時



寝る時も
18_寝る時



本当にずっと繋ぎっぱなし
なんていううらやまけしからん状況でしょう
もげればいいのに

この「手を繋ぐ」という設定について、古味先生は
単なる嬉し恥ずかしだけではない、もう一つの意味を
込めていました

それが、作中で「フレア」と呼ばれた少年「キリ」の能力
身体に触れると免疫力や治癒能力が上がるというのです
それだけではなく筋力や腕力までも上昇するこの能力
19_フレアs


2人繋げば2人の力が2倍に
3人なら3人の力が3倍に

すなわち

20_繋いだ数だけ

10人つなげば10倍に
1000人なら全員1000倍に
つないだ数だけ強くなる



これが古味先生の込めたその能力の真骨頂です

手を取り合えばその分だけ強くなれる
建物を持ち上げて動かせる程に

少年マンガの主人公が持つ能力としては
これ以上ないくらい正統派といった性質です
手を繋ぐという特別でも何でもないことに
これだけの広がりの可能性を込められる古味先生の発想は
なかなかのものでしょう

この何でもないことが持つ広がりの可能性
これこそが、古味作品を読みたくなる理由じゃないかと思います
なぜならダブルアーツ以外の古味作品にも
確かにそれが存在するからです

ただ島の外の世界に行きたいという子供ならみんな思うような夢
かつて子供だった大人
一度は諦めたその大人が、諦めたくない子供に問い掛けられて
思い出すあの気持ち
みんな昔は子供だったという当たり前の事実は
すなわちみんな同じ夢を持っていたということを意味し
その気持ちが取り戻された時、大人になった今なら
あの頃できなかったことができるかもしれない
islandはそんな気分にさせてくれるのです


また、2007年4月ジャンプ本誌に掲載された古味先生の
「恋の神様」

残念ながら今家に持っていないので画像を用意したり
ちゃんと読み込んで感想を書くと言うことができないのですが
他サイトさんの記事やら自分の遙かな記憶を辿ったりしたところによれば

少女に恋した主人公の少年が、彼女とお近づきになるべく
同じく少女を気に入っている神様の妨害を乗り越えて突き進むというお話

タイトルからすると、恋愛の神様みたいな存在が現れて
恋に悩む主人公を応援するようなドタバタを描くのかと思いきや
神様自体がヒロインとなる少女を気に入っており
彼女に近づこうとする主人公の邪魔をするという変化球
もちろん神様ですから大抵のことはできてしまうわけで
それでもめげずに彼女の元へ向かおうとする熱くて純情な少年が描かれます

これを別の視点で見ると神様とは、娘に近づこうとする男を
問答無用で邪険にするお父さん的なポジションと言えます
男にとって彼女のお父さんとは確かに何らか乗り越えるべき相手であり
マンガにおいても空手の達人などといった設定を持ってきて
主人公の障害として描かれたりしています
好きな女の子とお近づきになるのに障害があるという普通の青春の一コマ
その正体が神様であることで一気に壮大な闘いへと変貌しているのです


さらにダブルアーツの連載終了後まもなくして
スクエアに掲載された読み切り
「PERSONANT-ペルソナント-」
22_ペルソナント


顔だけでなく全身を覆うペルソナントと呼ばれるマスク
差別のない平等な社会を目指して差別の元となる「差」をなくすため
そのマスクを常に装着することが全ての人間に義務づけられた近未来世界で
唯一ペルソナントを拒絶していることで(でも普通に服は着てるのに)
周りから「変態」「露出狂」「犯罪者」と言われて追われる主人公と
そのペルソナントを遠隔操作することで全ての人間ひいては
全世界の支配を企む悪役の闘いを描いたこの作品

マスクをつけている以外人々は我々と変わらない日常生活を送り
マスクをつけていないだけで他は我々と同じような服装をして
しかし「変態」呼ばわりされる主人公
彼の目的はマスクの遠隔操作による支配計画の阻止

ペルソナントというマスクの要素を通して
我々読者の住むこちらとは決定的に若干違う世界観と
それが引き起こす世界規模の企みが同時に表現されていました


そしてまたその少し後にジャンプ本誌に掲載された読み切り
「APPLE」
23_APPLE.jpg


郊外で独り暮らしをする少年
新たに発表された学説により彼の存在は世界中に注目されることとなります
実は地球には意志があり、自分に迫り来る破滅の危機から逃れるため
特別な能力を持った生命体「APPLE」が創り出された
そして少年こそがその生命体だ
というもの

彼の元には大体朝ご飯の前後くらいの時間に
尋常でない数の軍隊がやってきます
少年のその能力を独占したいと思う各国の軍隊が

究極生命体としての能力によって
毎回5~6分くらいで軍隊にお引き取り願う少年と
少年が注目される切っ掛けとなった学説を発表した若い学者
彼らの奇妙な同居生活とそれを通して仲間意識が芽生えていく2人
ついに訪れた地球の危機とそれに立ち向かう2人

作中で究極生命体と呼ばれる「APPLE」でありながら
あっけらかんとした少年と
その少年の存在を世に知らしめた天才だけれど
無垢な金持ちのお坊ちゃんで憎めない若学者
さらには意志を持っている地球とそこに迫る危機という
世界規模の話の中に、性格だけは何とも普通な2人の若者の
単なる友情の芽生えという要素が
ほどよい身近な感覚を落としてくれていました

このほどよい身近さと同時にある運命的な世界観

規模のでかい世界レベルの話が進行するところに
日常的な要素や行為が同時に存在する
それゆえにその日常要素は
自分たちがよく知っているものであるはずなのに
ちょっと違うものに感じてしまう

壮大なる親近感とでも言えるでしょうか

少年と少女が手を繋ぐという普通のドキドキな行為

子供はみんな信じた外の世界

好きな女の子と仲良くなりたい少年の前に立ちはだかる障害

マスクによる全身被覆という「常識」と
それを拒否する主人公を「変態」呼ばわりする社会

同居生活を営む中で自然に仲良くなっていく若者2人

これらは全て我々読者の世界における日常的・常識的な要素を含むものです
しかし作品内においては同時に
彼らのいる世界をひっくり返す可能性が関係するものでもあったのです

余談ですが今までの作品以外に実はもう一つ
古味先生の雑誌掲載3作目にあたる
「Williams」
24_williams.jpg


という作品もあるのですが、これについては私の読み込みが足りないのか
そういった要素を感じ取ることはできませんでした
むしろ、古味先生が描いたテンプレート作品という印象を強く感じます


こうした壮大さと身近さが同居する中においては
日常の身近な要素が多ければ多い程壮大な部分が際立つと言えます
読み切りでは難しくても連載ならそうした構成も可能になるわけですが
あるいは、ダブルアーツは古味先生の長年の構想があっただけに
思い入れも強かったためか、とってもサービス精神旺盛なことになっています

コミックスにおけるオマケ的要素が多いんですね

例えば

こちらはコミックス1巻のカバーです
25_1巻表紙s



ちょっくらめくってみましょう
26_1巻カバー裏s


同じ構図のおっさんとおばちゃん
主人公キリの両親です
ふざけていますね

さらに
空きページには現在洋裁店を営む2人の出会いが描かれていたりします
わざわざタイトルまでついていて、その名も
27_ダブルスーツ


やっぱりふざけていますね(;^ω^)
よく見ると1巻カバー裏のところにも同じロゴが

その他の空きページには4コママンガがあったり
1巻に載っているものは赤マルに掲載された番外編を収録したものですが
2巻3巻ではなんと描きおろし
もちろん2巻も3巻もカバー裏はお茶目なことになっています

これでもかというくらいの充実です
きっとそれだけ古味先生の中で
キャラ達がしっかりと息づいており、生きているのでしょう

ここに、古味先生のもう一つの魅力があります

作者の中にしっかりと生きているキャラクター達
それゆえに古味先生の描くキャラ達は感情表現が非常に豊かなんですね
それなりに整った真顔だけでなく
動揺したり興奮したりした際の表情の崩し方が絶妙なんです
それ故に、キャラが本当にその世界に生きているように感じられ、
活き活きと動いているのです


豊かな感情表現を持つキャラクター達


古味先生のこの魅力は、現在連載中の「ニセコイ」においても
遺憾なく発揮されています

28_ニセコイコミックス


ニセコイとはニセモノの恋という意味を持つもので
その作品ジャンルはもちろんラブコメです
もともと古味先生はislandやダブルアーツのような
ファンタジー世界を描くことを得意としていますが
ニセコイは普通の現代世界における学園を舞台としたラブコメです

青春真っ只中の少年少女たちが

出会い
誤解
勘違い
すれ違い

動揺と興奮とドキドキと
期待と羞恥と嫉妬と
そんなめくるめく感情の嵐吹き荒れるラブコメ世界の中で
感情表現豊かな古味キャラ達が動いているんです


調理実習で作ったケーキを食べて欲しかったり
29_手作りケーキs


みんなでババ抜きをすれば丸わかりだったり
30_ババ抜き


待ち合わせのお店に入る前にガラスで髪型を気にしてみたら
ちょうどその向こうに相手がいたり
31_待ち合せs


とある事情で恋人のフリをしている(=ニセモノの恋)相手をデートに誘うのに
やけくそだけどやっぱり恥ずかしかったり
32_デートs



それはもうこれでもかというくらい
ラブがコメりまくりで
キャラ達も忙しいくらい感情に振り回されているんです

どうでもいいけどガラスに映ったこの顔かわいすぎるだろ常考
33_待ち合せ2s



さて、先ほども書きましたが
古味先生は本来ファンタジー世界を舞台とする物語を得意とする作家さんです
その古味先生が普通の現代世界におけるラブコメを描いている
それは古味先生が描きたいものが少し変化したのかなと
勝手に思っています

islandの巻末コメントでは夢のある話が描きたいと言っていた古味先生
ニセコイ第1巻の作者コメント欄ではこう言っていました

34_作者コメント2

第一巻です!!
楽しいものが
描きたいです。
それではよろしく!!



夢のある話から楽しいものへ
もちろん夢のある話を描きたくなくなったわけではないでしょう
マンガ家として活動していくうちに描きたいものが変わっていくことは
当然あることだと思います

ただ、そのためなのかはわかりませんが
今までの作品に存在した「壮大な親近感」というような要素は
ニセコイからは感じられないというのが正直な感想です
ちょっとだけ残念と言えば残念なのですが
しかしそれは逆に言えばその分日常的なあれやこれやを
存分に楽しめるということでもあるのです

何でもないことに込められた壮大な事実に衝撃を受けることもなく
ひたすらにキャラ達の掛け合い、日常を楽しめる
そんな娯楽作品なのです
「楽しいものが描きたい」という古味先生の意図は
見事に成功していると言えるでしょう
やはりあなどれません古味先生

現在のジャンプの中に存在するニセコも含めたラブコメ作品3つ
ジャンプ感想界隈では画力がエロ成分が足りないと言われますが
その分ニセコイはキャラと言う点において3作の中で1番の評価を
得ています

そんなニセコイとそれを描く古味直志先生
これからも目を離せません



期待です



※2014/4/5追記
ついに発売された古味直志先生短編集そのレビューはこちら
溢れ出る圧倒的な世界観とワクワク感…古味直志先生短編集『恋の神様』が見所ありすぎる!



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